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「統合失調症」のおはなし:医療従事者向け vol.1/3

はじめに

本サイトのコラムでは珍しく、今回は「症状」ではなく「疾患」に関するおはなしをいたします。なぜかというと、統合失調症は、精神科の基本とも言える疾患で、臨床的には統合失調症を理解することが、精神科に携わるための基本につながるとなると言っても過言ではないからです。そのため、この記事は主に精神病症状や自我障害をある程度理解していらっしゃる医療従事者向けのおはなしになります。

統合失調症をわかりやすく

これを読んでくださっている方は、すでに教科書的な統合失調症の知識はご存じだと思いますが、臨床に立つと、例えば「幻覚妄想」とは言っても何をどう理解していいのか、どうやって患者さんと接したらいいのか、特に初学者の方にとっては戸惑いを隠せない疾患でもあります。

「統合失調症の患者さんとどうやって距離を取っていいかわからない」
「幻覚妄想状態で暴れている患者さんが正直怖くてものおじしてしまう」

という方もいらっしゃると思いますので、ここではそうした臨床的視点に立って、疾患の理解を深めていただき、彼らがとっている言動を症状としてどのように捉えたらいいのかを理解する助けになればと思います。

他の科でも同様ではあるのですが、精神科臨床では目に見えない症状を扱うことが多いために、「患者さんの中ではどんなことが起きていて、どういう気持ちでいらっしゃるのか」により一層深く思いを馳せることが重要となります。「病気への最大の理解は、自身がその病気になることだ」とはよく聞かれるものの、すべての病気にかかることはできません。ですが、患者さんを理解しようと努め、できる限り近似した理解で臨むことがだいじです。

さて、「患者さんの身に何が起こっているのか」という視点で本題に入りましょう。

【精神病症状=統合失調症】ではない

まずは、教科書的な知識のおさらいをしましょう。

よくある誤解なのですが、精神病症状がある方全員が「統合失調症」であるというのは間違いです。実は、精神病症状は双極性感情障害(躁うつ病)、うつ病といった感情の症状を認める疾患にも伴うことがありますし、アルコールや覚醒剤などの物質使用が誘発する場合もあります。
そういう意味では、精神病症状は発熱のようなものです。発熱があるからと言って、一律「感染症」とは限らず、腫瘍や膠原病なども鑑別に挙がることと同じです。精神病症状は統合失調症の必要条件ですが、十分条件ではないということになります。

精神病症状は、一般人口の3.5%に存在すると言われ、そのうち統合失調症など感情の症状がないものは2.3%であるといわれています。統合失調症は一般人口の1%弱ほどの有病率であるのはご存知だと思いますが、感情の症状がない精神疾患だけでも統合失調症と同じぐらい他の疾患にも精神病症状が認められることになります。この例が妄想性障害や急性精神病と称される「急性一過性精神病性障害」などです。
ちなみに、3.5%から2.3%を引いた残りの1.2%の方は、すでに述べた躁うつ病や物質使用に伴ったものです。[1]

以上、「幻覚妄想があれば統合失調症」と短絡的にならないように留意する必要があります。

「陽性症状」=「1級症状」=「基本症状4A」ではない

精神病症状は、幻覚、妄想、まとまらない言動の3つの総称というのはご説明しましたが、統合失調症を本人の視点から捉えると、自我障害という概念が大事になります。これは、「自我障害」のおはなしでも解説していますが、統合失調症は幻覚や妄想が目に見える症状で目立ちやすい特徴があるので、それだけに注目が集まりやすいのですが、実は幻覚や妄想に至るまでの「思考のプロセス」がとても大事なのです。この思考のプロセスを「思路」と呼び、思路に障害をきたす根本の原因は自我障害にあると言われています。

ここで、タイトルにも挙げた3つの症状の分類方法について違いを解説しましょう。
「陽性症状」というのは、その患者さんに認められる、あるいは目立つ症状かどうかで判断されており、今でも臨床ではよく使われている用語ですが、実はかなり表面的な用語でもあります。「表面的」というのは、目に見える症状をなぞっているだけで、その背景にまでは触れられていない、という意味です。

「1級症状」は陽性症状をもっと掘り下げ、自我障害がもたらす思路障害について具体例を挙げたものになっています。
「自我障害」のおはなしでも出てきた「インプット」と「アウトプット」について、それぞれ具体的にどのようなものがあるかが列挙されており、患者さんの陽性症状について、さらに踏み込んで情報聴取ができるようになります。
精神科医からすると、陽性症状の有無をまずは同定した上で、さらに掘り下げるための内容がこの1級症状になります。

ちなみに、1級があるからには、2級もあります。これを提唱したドイツの医師Kurt Schneider(クルト・シュナイダー)先生は、これがあれば統合失調症と診断してよいという項目を1級症状として挙げ、その他の症状で診断には足らないが認められるものを2級症状として分類しました。
例えば、1級症状としてシュナイダーは「妄想知覚」を挙げ、2級症状の「妄想着想」と区別しました。前者がインプットされた刺激が思考のプロセスの中で妄想になっていくのに対し、後者はインプットされた刺激そのものが直接妄想として発現するものを指しています。
隣の住民が咳払いをすると「咳をしたので、自分を攻撃する合図だ」となるのが、妄想知覚であり、何の刺激や根拠もないところで「自分は皇族の末裔だ」となるのが妄想着想の例です。
妄想知覚は2分節で、妄想着想は1分節であることに気づかれるとわかりやすいと思います。
シュナイダーは思路の障害ということに重きを置いたため、思考を介さない1分節よりも思考を介して出現する2分節の妄想のほうが統合失調症により近いと考えていたのです。
しかし、1級症状は他の精神疾患でも認められるため、現在は上述のようにあくまでも思路障害についての聴取目的で用いられていることが多いです。

「基本症状4A」というのは、スイスの医師であるEugen Bleuler(オイゲン・ブロイラー)先生が提唱した統合失調症の概念です。
基本症状4Aというのは、まとまりの喪失をもたらす4つの症状の頭文字をとっています。上に挙げたシュナイダーの1級症状は、ブロイラーで言うところのAssociation(観念連合=思考のまとまり)にあたり、Associationの「まとまりの喪失」の結果が1級症状であると言えます。ブロイラーはこの他にもAffection(感情)、Ambivalence(意志)、Autism(社会性)において「まとまりの喪失」が認められると考え、この「まとまりの喪失」が、現代の「統合失調」という用語に相当しています。
日本語の統合失調症、ドイツ語のSchizophrenie、英語のSchizophreniaという用語の生みの親がブロイラー先生です。
この基本症状4Aは統合失調症の陽性症状だけでなく、陰性症状や認知症状も網羅しており、統合失調症の本質を俯瞰的に理解する上で非常によくまとまった概念と言えます。

>思路障害が陽性症状の本質:次に続く


[1] Van Os, Kapur: “Schizophrenia” Lancet 2009

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