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FAQ:Panic Disorder|パニック症のよくある質問

はじめに

パニック症に関して寄せられた質問をまとめてみました。

ここでは執筆当時の論文や医学的見地を元に記載をしてありますので、今後、病因が明らかになるにつれて内容も変わってくるかもしれません。内容に関してはあくまでも一般論として参考までにとどめてください。

個別の症状や治療薬等の質問にはお答えしかねます。予めご了承ください。

過換気症候群とのちがいを教えて下さい
過換気症候群というのは、過換気(≒過呼吸)によって生じた様々な症状の群(=症候群)を指していて、パニック症は過換気症候群をもたらす大きな原因疾患のひとつ、と説明できます。

つまり、パニック症は原因(のひとつ)、過換気症候群は結果の関係にあたります。

過換気症候群をもたらす原因疾患は他に、肺の病気、心臓の病気、不安症、恐怖症などがあります。


過呼吸の時に紙バッグを使うのが有効だと効いたことがありますが、本当ですか?
これは本当「だった」が、今は使ってはいけない、というのが正解になります。

なぜかというと、過呼吸を起こす原因には、紙バッグを使うと逆効果になる病気もあるためです。

過呼吸を起こした原因がわかっていない段階で、紙バッグを使うと、症状が悪化した状態で救急搬送されることになるため、今では「明らかに勧められない」すなわち、使用してはならないという注意喚起が一般論となっています。

紙バッグを使ったことにより、1989年に初めて死亡例が3例報告(おそらく肺や心疾患を背景とした過呼吸に対して行われたため、逆効果になってしまった)されてから、論争がありましたが、現在では上記のような結論に落ち着いています。[1]



また、現実的に考えても、過呼吸になった時に、そもそも紙バッグなんて持ち合わせていたり置いていることは少ないというのもあります。

当の本人は過呼吸になりながら恐怖に陥っている中で、紙バッグに息をできるほど余裕がないことが多く、すぐに両手でくしゃくしゃになってしまうか、紙バッグが口に張り付いてしまうかで、さらに恐怖を増してしまうでしょう。
過呼吸になったときの対処法を教えて下さい。
前の回答の続きになりますが、紙バッグが原則使用禁止になっている現在、過呼吸が起きたら何をすればいいかというと、「うつ伏せで腹式呼吸」になります。[2]

発作がおきたら、片手を胸に当ててみましょう。呼吸が早くて、その手は激しく上下しているはずです。

そして、もう一方の手をお腹に当ててみてください。胸に置いた手の動きが早すぎるせいか、お腹に当てたてはほとんど動いていないはずです。

これをお腹の方に空気をたくさん入れて、お腹に当てた手の方が大きく上下できるようにしてみましょう

できたら、そばにいる人や立ち会った家族にお腹で息をするのを手伝ってもらってもいいでしょう。




それから、場所が許せばうつ伏せになると楽になります。もしできない場合でも、立っていることが最も辛いので、自分ができる楽な姿勢で腹式呼吸をしてみるといいでしょう。

過呼吸発作を起こすと、今まで経験したことのない死への恐怖と不安に襲われます。
発作の最中では「自分はこのまま酸欠で死ぬんじゃないか」という本能的な恐怖が襲って、ますます呼吸しにくくなりますし、発作が終わっても、「また同じことが起きたらどうしよう」という不安に苛まれます。

過呼吸そのもので命を落とすということはない」ことを本人や周囲の人々が安心してあげられるとなお良いでしょう。

状態が落ち着いたら、近くのメンタルクリニックに行き、今後の対処法を相談するとよいでしょう。

不安からこの症状に陥ることが多いと聞きますが、過去のトラウマ的なことや、生育環境、遺伝等も関係するのでしょうか?
パニック症は、ある文献[3]によれば、発症要因の7割以上が【環境】と言われていますので、質問にあるように様々な因子が絡んでいると言えます。また、遺伝子についても「一つの遺伝子」が原因ではなく、複数が関与していると言われていますので、原因をひとつにしぼることはできません。

では、どんなものが【環境】に含まれているのでしょうか?
子供の時期ですと、身体的虐待、性的虐待や未成年での喫煙、喘息、家族の死や離別がこれまで報告に挙がっています。[4]-[10]
大人になってからですと、脅威的な体験(=これは質問にある「トラウマ的なこと」と同じ意味でしょう)、人間関係、健康問題、経済的問題などが挙げられます。これらはいわゆる「著しいストレス」ということでまとめられるものと思われますが、注目すべきは、特に「過去1ヶ月以内に起こった」甚大なストレスというのが相関が強いと報告されています。[11]



パニック症は科学的にも「不安症」のひとつであるとされています。

たとえば、コントロールの効かない不安、脈絡のない不安を抱える「不安症」や、人混みや電車の中といった家の外で、「逃げ場がなくてどうしたらいいかわからなくなる」広場恐怖などとの関連が強いとされています。[12]

多くの方は20代で発症し、女性の方が2倍多くいらっしゃいます。8月と12月に悪化することが多く、発症は春と夏に多いという報告もあります。[13]

参考・引用文献

[1] Callaham M. Hypoxic hazards of traditional paper bag rebreathing in hyperventilating patients. Ann Emerg Med. 1989; 18 (6) : 622-8.

[2] DeGuire S, et al. Breathing retraining: a three-year follow-up study of treatment for hyperventilation syndrome and associated functional cardiac symptoms. Biofeedback Self Regul. 1996; 21 (2) : 191-8.

[3] Smoller J W. et al. Genetics of anxiety disorders the complex road from DSM to DNA. Depress Anxiety 26: 965-975, 2009

[4] Klauke B. Deckert et al. Life events in panic disorder-an update on “candidate
stressors”. Depress Anxiety 27: 716-730, 2010

[5] Kessler RC, et al. Childhood adversity and adult psychiatric disorder in the US National Comorbidity Survey. Psychol Med. 1997;27(5):1101.

[6] De Venter M, et al. Impact of childhood trauma on course of panic disorder: contribution of clinical and personality characteristics. Acta Psychiatr Scand. 2017;135(6):554. Epub 2017 Mar 28.

[7] Cosci F, et al. Cigarette smoking and panic: a critical review of the literature. J Clin Psychiatry. 2010;71(5):606. Epub 2009 Dec 1.

[8] Isensee B, et al. Smoking increases the risk of panic: findings from a prospective community study. Arch Gen Psychiatry. 2003;60(7):692.

[9] Hasler G, et al. Asthma and panic in young adults: a 20-year prospective community study. Am J Respir Crit Care Med. 2005;171(11):1224. Epub 2005 Mar 11.

[10] Craske MG, et al. Paths to panic disorder/agoraphobia: an exploratory analysis from age 3 to 21 in an unselected birth cohort. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2001;40(5):556.

[11] Klauke B, et al. Life events in panic disorder-an update on “candidate stressors”. Depress Anxiety. 2010 Aug;27(8):716-30.

[12] Hettema J M, et al. The structure of genetic and environmental risk factors of anxiety disorders in men and women. Arch Gen Psychiatry 62: 182-189. 2005

[13] 浅井昌弘ら 臨床精神医学講座 ストレス関連障害 pp 161-167.中山書店. 1997

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