22歳の男性。家庭内で自室に閉じこもり「おれの悪口を言うな」、「外を通る人が窓からのぞいている」などの実際には認められないことを口走ることが多くなったため、両親とともに来院した。診察した精神保健指定医は、治療が必要であるが本人に治療意欲がないことを考え、医療保護入院とした。
禁止できるのはどれか。2つ選べ。
a. 弁護士との面会
b. 両親あての手紙
c. 友人あての電話
d. 家族の希望による自宅外泊
e. 精神医療審査会への退院請求
解答:c, d 弁護士や裁判所、精神医療審査会(行政機関)といったリーガル周り+信書(手紙)はOK。他はすべて禁止が可能。厚労省が公開している医療保護入院の告知書を参考に貼っておく。措置入院も基本的には同じ処遇である。
a. b. e. 特にbの手紙は迷うところだが、どこに出そうとも禁止されない。外部との連絡に唯一制限がかからないのが信書である。
正答であり、禁止できる選択肢d.も「家族が同意したのだから、家族の希望なら通るだろう」と迷ったかもしれない。これは非常にトリッキーな選択肢なのだが、2つの説明が可能だ。
1) 非自発的入院(任意入院以外の入院形態すべて)はそもそも自宅外泊ができるような状態にないから「非自発」なのだ。医療保護入院時は、本人以外の家族から同意を得なければならないほど本人のオリエンテーションが失われ、病状が切迫していたことがそもそもの発端であり、本人の治療舞台を外来でなく入院とせざるをえなかった背景があるのだから、「入院外」である自宅外泊は治療と相反する行為なのではないかと想像がつくだろう。家族の希望とはいえ、明らかに本人の病状と矛盾している可能性が極めて高く、その場合d.が可能となってしまうと文字通り医療による保護が継続できなくなってしまう。
ただし、本人の病状が十分に軽快して自宅外泊ができるような状態になっていれば、もちろん話は別だ。ところが、その場合は、医療保護入院という入院形態がむしろ不必要であり、本問題からも逸れてくる。実際に、医療保護入院を含め非自発的入院の期間は可能な限り最小限に止め、症状が十分に軽快し、本人が自分で自分の身の安全を確保できると判断された段階で、任意入院にできるだけ早期に切り替えることが常に求められている。任意入院になれば、やはり主治医の判断は必要だし、本人の病状優先にはなるだろうが、d. はできるようになるかもしれない。
2)精神保健福祉法第36条にて「精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。」と定められており、自宅外泊や退院などは病院管理者の判断が必要となる。この内容自体を読むと当然のように感じるだろうが、条文の「入院中」が「非自発的入院中」でないことに着目してほしい。入院形態に関わらず、主治医や精神科病院管理者は常に患者さんに対し、現病状に対して過不足のない最適化された(あるいは病状とマッチした)処遇内容で医療を施さなければならないということを意味する。同意者の希望であっても自宅外泊が可能と判断する責任の所在は主治医や病院管理者である。医療保護入院中は1)で述べたように自宅外泊ができる状態ではないということを意味しており、主治医の判断に反して自宅外泊をする状況がつくられてしまうと、自宅外泊という処遇は本人の病状にマッチしていないことを意味する。具体的には外的刺激にまだ耐えられない病状や脆弱性であるがゆえの病状のさらなる悪化、入院期間の長期化などのリスクが上回ってしまうだろう。逆に自宅外泊ができる状態なのに医療保護入院中ということは、処遇がオーバーになっており、やはり本人の病状にマッチしてしない可能性があろう。