【NEW】医師国家試験 精神科過去問解説 順次UP中です!→【国試過去問】

115E45, 115E46

28歳の女性。意識障害のため救急車で搬入された。

現病歴: 自室内のベッドで仰向けに倒れているのを友人が発見し、呼びかけに反応が乏しいため救急車を要請した。友人とはその3時間前に電話にて口論となり「死にたい」などと話した後に連絡が取れなくなったという。救急車到着時、自室内の戸棚に錠剤の空包が多数あった。

既往歴: うつ病の診断で3か月前から三環系抗うつ薬とベンソジアゼピン系睡眠薬を服用中。1か月前にも過量服薬による意識障害で他院に緊急入院している。

生活歴: 喫煙歴と飲酒歴はない。仕事は事務職で半年前に部署が変わり、ストレスが多いと感じていたという。

家族歴: 特記すべきことはない。

現症: 意識レベルはJCSⅢ-100。身長 158 cm、体重 45 kg。体温 36.7℃。心拍数 108/分、整。血圧 108/60 mmHg。呼吸数 24/分。SpO₂ 91% (リザーバー付マスク 10L/分酸素投与下)。舌根沈下が強く、いびき様の呼吸をしている。皮膚は やや乾燥している。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。瞳孔径は両側 6.0 mm正円で、対光反射は両側で遅延している。頸静脈の怒張は認めない。甲状腺腫と頸部リンパ節とを触知しない。心音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。腸雑音はやや弱い。四肢に麻痺はなく、腱反射は正常である。

心電図は洞調律で不整はないが、QRS幅が広がりQT間隔の延長を認める。ST-T変化は認めない。

直ちに行うべき処置はどれか。

a. 胃洗浄

b. 気管挿管

c. アトロピン静注

d. フロセミド静注

e. プレドニゾロン静注

診察により肺炎の合併が疑われた。誤嚥性肺炎の所見と合致しないのはどれか。

a. 胸郭打診による濁音

b. 胸壁触診による皮下握雪感

c. 視診による口腔内の吐物残渣

d. 聴診によるcoarse cracklesのcracklesの聴取

e. 聴診による呼吸音の減弱

115 E45解答:b.  過量服薬overdoseは、深刻な社会問題であり医原性のイベントに間違いない。OTC薬による過量服薬や依存形成も無視できないのだが、依然として処方薬、それも致死量に至るケースでは診療科の9割超が精神科であることも報告[*]されており、精神科医が担っている責任はあまりにも大きい。
さらに、過量服薬は意識障害を伴うなどの背景で救急搬送される割合が多いため、医療コストの甚大さも深刻だ。死亡事例に占める薬剤ではベンゾジアゼピン系が圧倒的に多く、それが故にベンゾジアゼピン系の副作用である過度な筋弛緩作用や呼吸抑制が本症例のように起きうる。本症例の切迫感を読み取り、処置として気管挿管を選べればOKだ。

処方する側はこうした状況をつくり出す意図はなかったと願いたいが、できる限り防がねばならない。なぜベンゾジアゼピン系がここまで氾濫しているのか?それは精神科にかかる患者の愁訴に「不安、不眠」が圧倒的に多いから、と、現段階でベンゾジアゼピン系に代わる薬剤が存在しないからである。ベンゾジアゼピン系薬剤は、不安、不眠、さらには筋硬直に伴う頭痛、腰痛等に即効性がある。患者自身も即効性を求めていること、医療者側も改善の評価をしやすいこと、他の代替でそのような薬剤がないことから処方されやすい薬なのだ。

防止策としては、過量服薬の既往のある患者に新たにベンゾジアゼピン系を処方しないことだ。ドクターショッピングを隠して処方薬を求める依存傾向のある患者に対しても同様である。超短時間作用型の処方は「いつ漸減中止するか」という出口戦略が見えなくなってしまうため特に控える。こうした背景がない患者においても同様だ。他に選択肢がないと思われても長時間作用型のものに限定するなどの工夫が必要だ。

特に最もつらい状況で超短時間作用型を処方してしまうと、心理的にも「ゼロからの急激な改善」に驚きと感動を維持したくなってしまう。その薬が耐性形成や依存につながらなければこの限りではないのだが、ベンゾジアゼピン系は残念ながらリスクが大きいことと、加えてそもそも人間の報酬系は常に著効性を求めるように回路構築されてしまう。コツは、これを逆手に取り、初診の時こそ改善はそもそも大きく感じるものなので、処方薬よりも精神療法のウェイトを大きくするなどして、受診したことによる治療効果を最大化することと、処方薬も出口戦略を考慮してサスティナブルに処方することなのかもしれない。

これらは特に初めて診察を行う場合に正念場となる。不安を訴える患者に「すぐに良くして差し上げたい」という心理が働くのは当然であるし、医師患者関係の構築をできるだけ早く進めたい、と考えるのも当然だろう。限られた診察時間の中、そして人数で診療報酬が決まる健康皆保険システムの下で、不安の大きい患者を前にし、その不安が医療者自身に伝播しやすい性質を持っていることもあり、現時点の医療者自身の不安を解消する手段としてベンゾジアゼピン系を処方してしまうこともするのは少なくとも控えたいところだ。言うは易しであるが、自戒をこめてここに解説してみた。 

115E46 解答:b. 押した時に皮下組織に入った空気が逃げるため、「キュッ、キュッ」と音がする。皮下気腫で認める。

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