神経性過食症〈大食症〉で正しいのはどれか。
a 自己肯定感が高い。
b 過活動になることが多い。
c 肥満に対する恐怖心はない。
d 自己誘発嘔吐と下剤乱用を反復することが多い。
e 食事をコントロールできるという感覚は保たれる。
解答:d
例年よく出る「神経性やせ症 AN: Anorexia Nervosa」じゃなくて、神経性過食症 BN: Bulimia Nervosaが出題されたので、身構えてしまった方も多かったのではないだろうか?しかも、第118回医師国家試験で最初の精神科出題だったので、幸先を不安に感じたかもしれない。だが、安心しよう。このような「ひねり」の新規問題は大体正答率が高く、わかりやすい正答がひとつ隠れている。
正解はcとdで迷ったかもしれないが、cは誤り。神経性過食症の「神経性」の意味するところは、【ボディーイメージの歪み】が存在することである。神経性過食症は、むちゃ食いすることと相反して、体重(増加)に対する過度なこだわりや恐怖心が存在する(選択肢c)。なぜなら、自己評価が体型および体重に左右されており、体型や体重のコントロール感がそのまま自己肯定感に直結しているからだ(選択肢a)。このため、よく間違えられやすいのだが、(神経性)過食症の人は決して太っているわけではなく、むしろ太ることに過度に恐怖を抱いており、むちゃ食いの後に不適切な代償性行動(過食したことをリセットしようとする行動:選択肢dが正解)を働いてしまうことが本疾患の中核症状である。
a: 上記説明から、自己肯定感が高いとは言えない。
b: 過活動は神経性やせ症にみられる。飢餓状態となると、血糖値を上げるために交感神経が過剰に賦活化され過活動となる。この過活動は古代では狩りを行うための駆動力となり、獲物を一刻も早くhuntして血糖値を上げるために使われる生理的な反応であり、いわゆるhunting modeの表れなのだが、神経性やせ症ではこの過活動性がさらなる食事制限やダイエットのための駆動力となってしまう。
c: 上記説明より、肥満に対する恐怖心が存在するがために、過食の後に不適切な代償性行動(過食したことをリセットしようとする行動)を様々に繰り出すこととなる。
e: 食事をコントロールできる感覚も行動も保たれていないのが、食べ過ぎovereatingとむちゃ食いbinge-eatingの決定的な違いだ。この2つを区別するためにあえて「過食」ではなく、「むちゃ食い」とDSMでは使われている。DSMの神経性過食症の診断基準にも「食べるのをやめることができない、食べる物の種類や量を抑制できないという感覚」が盛り込まれている。
最後に、「(神経性)大食症」は、DSM-Ⅳ-TRまで使われていた旧称だ。