【NEW】医師国家試験 精神科過去問解説しました!→【国試過去問】

「不安」のおはなし vol. 2/2

はじめに

前回は、3つの条件を満たしている健康な不安であれば、ごく自然な反応であることをご説明いたしました。今回は、症状としての不安について説明をしていきます。前回に引き続き、皆さんが不安に苛まれている場合、どのような性状であれば医療機関を受診したほうがいいのかについて、判断の一助となることを目標としています。

先に結論から述べてしまいますと、不安を症状として捉えなければいけない基準は、以下の2点です。

  1. 誤作動:非常ベルがいつ鳴り出すかわからない
  2. コントロール喪失:鳴り始めたらスイッチを切ることができない

この2つの状態が、負の相乗効果でどの程度具体的にあなたの生活に支障をきたしているかが、不安症状の重症度や緊急度につながります。

不安に随伴する諸症状

健康な不安と同様、症状としての不安にも、様々な身体症状を伴う場合があります。

非常に典型的なのは、

眠りの浅さ」:夜中途中で何回も起きてしまう、朝方3時4時に起きてしまい、そのあと寝ずじまい、など

動悸

呼吸の浅さ

などがあります。人によっては、

「ノドや胸につっかかる感じがする」

「肩こり頭痛の悪化」

「しびれ」

「発汗」

などを経験される方もいらっしゃいます。

不安に伴う身体の症状は、戦闘警戒モードのときに起こる反応と同じ。

これらも前回に出てきたように、やはり獣に追われていた原始時代の生活の名残として説明が可能で、

夜もおちおち寝ていられない(…ので、眠りが浅い)」

すぐに逃げられるようにしないといけない(…ので、筋肉をこわばらせて心拍数を上げたり呼吸を早めたりして緊張状態を保っておくような症状が出る)」

といった(誤った過度の)警戒状態がつくり出されていると言えます。

警戒状態が継続するにつれて症状になる

健康な不安と違い、症状としての不安になると、あなたの意図しないタイミングで起こったり、些細な刺激(=ストレス)で大きく出たり、一旦出るとなかなか収まらなかったりします。そして、このような状態が続くと、「発作」と呼ばれる、大きく鋭い短距離走のようなものが出る方もいらっしゃいますし、ずっと持続的に継続するマラソンのようなものが出る方もいらっしゃいます。

前者の短距離走を特に「パニック発作」と呼びます。パニック発作で生活に著しい支障をきたしていることにより、パニック症の診断となります。

症状が出ているときは、「死んでしまうんじゃないか」「もう自分はだめなんじゃないか」と考え、症状が出ていないときにも「また同じことがいつ起きるかもしれない、怖くてたまらない」(=「予期不安」と専門的には呼びます)「もう終わりにしたい」と考えるようになるのは想像に難くないでしょう。

本人の生活の質をこれほどまでに常時下げるわけです。これらが、上記の「支障」にあたります。

なお、後者のマラソンのような不安の持続も、本人にとっては「不安発作」として感じるぐらい辛く長いものです。

短距離走もマラソンも、自分の意志とは関係なく走らされていることには変わりありません。

この、自分が主で不安が従という健康な関係から、不安が自分をコントロールするようになるという、主従関係の逆転が、健康か症状かの違いになります。

流れの停滞

うつに伴う気分の落ち込みや悲しみもそうですが、不安が時間と共に過ぎ去っていくかも重要なポイントです。

これは、「脈絡のある不安か」という点にも関連しています。

喜怒哀楽や不安といった健康な感情は、流れを伴っています。言いかえると、あなたの中に感情がぽっと浮かび、そして時間とともに出ていきます。例えるならば、川の水や空の雲を見つめている時のように、あなたの視界に入り、そして出ていくようなイメージです。

健康な不安が流れを伴っているのであれば、時間もまた流れですので、必ず過ぎ去っていきますが、症状としての不安はこうはいきません。

最初はきっかけこそあったものの、その後はもはや脈絡なく生じるようになり、本人に留まる時間も長くなっていきます。
また、「決まって朝に突然不安が大きく出てくる」といった、いわばルーチンのようなエピソードになる方もいらっしゃいます。

コントロール失った状態は自己評価を下げる

自分が難なくできていたことやコントロール管理できていたことに対して、失敗や喪失、予期せぬトラブルが加わると、落ち込んだり悲しくなったり、不安を覚えることはごくごく自然で、健康な反応です。

健康な反応であれば、前述の流れを伴いますので、時間の経過と共に過ぎ去っていきます。
不安を抱えている時は、一時的には自己評価を下げたり自己不全感を生じるかもしれませんが、決して絶対的な変化ではないでしょう。

これが症状としての不安となると、そのまま停滞するため、自己評価や自己不全感を蝕んでいき、いわゆる「自己肯定感」を下げていきます。次に述べる心理療法はこの思考のプロセス(=認知といいます)に介入する治療法です。

心理療法と薬物療法

不安に対する治療の大前提は、原始時代の話で出てきましたが、「安心安全」の確保です。これが絶対的に不足している場合は、薬物療法でまず心理的な安心安全を確保することが先決です。

心理療法は、前述のように思考プロセスの軌道修正を要する作業のため、いわゆる「心の体力」がある程度必要になります。まだスタミナがおぼつかない安心安全が欠乏している状態でこれを受けると逆効果にすらなる可能性があります。

不安の治療に関する朗報としては、不安は前にご説明したとおり、扁桃体にまつわる生物学的なメカニズムがある程度は判明していることもあり、薬物療法もよく効きます。

治療を継続していくと、最終的には、不安発作が万が一出た時に飲めるようなお薬をお守り代わりにバッグに忍ばせておけば、それだけで「安心安全」が確保されるようになる方もいらっしゃいます。

一方で、「非常ベル」はいったん作動回路がインプットされてしまうと、なかなか「もう鳴らさなくていいんだよ」と脳が認識し直すには、相応の時間がかかります。

「安心安全」が本当の意味でずっしりと構えられるぐらいになって来ないと再発や悪化もきたしやすい症状でもあります。

早期に受診をしていただくことのメリットはここにあります。非常ベルが鳴りたてであれば、誤った作動回路が固定化する前に治療ができるため、全体の治療期間は短くて済むことが多いです。

皆さんが、ご自身の不安に対する理解をこの記事で深めていただけたら幸甚です。

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