【NEW】医師国家試験 精神科過去問解説 順次UP中です!→【国試過去問】

うつは過去、不安は未来、精神病は現在を生きる。

「こころの時計」と精神症状を対比させて考えてみると、それぞれに特徴があることがわかります。

うつは過去に囚われてしまい、「ああなったのは自分のせい」と自責的になり、「(過去を鑑みると)もう未来はない」と考える特徴があります。

不安は未来に対する杞憂です。「また同じことが起きたらどうしよう」「明日の会議はうまくいくかな」と懸念がどんどん膨らんでいきます。

いずれも「現在」が抜け落ちているのがわかると思います。
無論、うつの時は現在に集中したり活動したりするエネルギーが枯渇しているため、現在にフォーカスするだけのスタミナがないとも言えますし、不安な時は現在への注意力を全部未来の方向に持っていってしまいますから、いずれの場合も「心ここにあらず」なのです。

最近よく耳にするようになった「マインドフルネス」や瞑想は、こうした時間軸を【現在】に戻す役割があります。また、治療によりうつも不安も改善すると現在に集中できるようになってきます。
治療経過で「こころの時計」がさらに改善すると、うつの場合は未来への希望が出て「今後こんなことをしてみたい」「これからはあれをするつもりだ」と未来志向のモードにシフトしていくようになってきます。

不安の場合は、過去を振り返る余裕が生まれて「あの時はどうかしていた」「今だったら違う決断を下していただろう」と不安悪化の防止策を立てるようになっていきます。

時間軸で精神症状を捉えることは、精神科医のしごとでも解説しましたが、患者さんの現在の症状がどの方向を向いているかで、だいたいの重症度や改善の度合いがわかるのも事実です。

時間とは本当に不思議で興味深く感じさせられる概念です。

さて、精神病症状ではいかがでしょうか?
急性期において、精神病症状がその人をコントロールするようになると、現在にしか注意を払えなくなってきます。それほど極限状態で毎日を過ごすことになる、という意味でもあります。

精神病症状を時間軸で考えるに、治療後改善する方と慢性化していく方の違いはなんでしょうか?これは時計が同期されるか止まるかの違い、と表現できます。

精神病症状は「発症後、時間が止まる」とよく言われます。「自分は皇族の血をひいている」といった誇大妄想の中で生きている方は、ずっと発症当時の体験がそのまま残っていますし、被害関係妄想の中で生きている方は、発症当時の被害体験をいつまでも語り続ける方がいらっしゃいます。

時計を同期してしまうと、あるいは現実に真っ向から向き合ってしまうと、おそらく壊れてしまうぐらい大変な経験やトラウマを抱えているからなのかもしれません。妄想が自己防衛の手段なのだという心理学的研究もあります。こうした患者さんにどことなくピュアで若々しい印象を受けるのもこれと関連しているのでしょうか?

いずれにしても、精神病症状は発症すると「いま、ここ」にしか注意を払えなくなっていきます。現在を生きるのに精一杯だからです。症状が治療によって改善した暁には、また時計が刻まれはじめ、本人も現代と同期した生活を送るようになりますが、極限状態のあとの疲弊感もあり、これはこれでしんどいものです。妄想が主体の方は、この妄想の中に生きることによって、現実を生きることの厳しさから自分を保護しているとも考えることができます。現実とは別の時を刻んで生きることの意味はこれにあるのかもしれません。

なお、少し議論は異なりますが、「神経発達症(発達障害)」のおはなしにも「時計」の話が出てきます。そこでは社会の時計と自分の時計が一致しないことによるギャップに苦しむ傾向があることを説明しました。現代社会はあまりにも社会の時計が優先され過ぎているのかもしれません。本人のペースで自分の時計を刻めるような環境があれば、社会が寛容となりメンタルヘルスも重要視されてくるのではないかと考えます。

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