上図①から④をそれぞれ順に解説していきます。
相手と想定している対象が一致していて、かつその表現方法も互いにとって的確である。
= 理想のコミュニケーション
同じ対象について想定できているが、その表現方法が異なっている。
=ミスコミュニケーションその1
表現方法は一致しているが、想定の対象が異なっている。
=ミスコミュニケーションその2
対象も表現方法も一致しておらず、徹底したアラインメントが必要。
=コミュニケーション不成立
②シニフィアンの相違と③シニフィエの相違がいわゆるミスコミュニケーション(=齟齬)と呼ばれています。
②シニフィアンの相違については、ただ単に相手方の言語を学ぶだけではなく、その言語が指し示す対象や文脈(つまり、シニフィエ)とセットで習得することで、言語が1回のシチュエーションでは表現しきれないものを深く理解できるようになるわけです。これについては後に詳述します。
そして、③シニフィエの相違が昨今では特にトラブルに発展しやすいせいか、「組織心理学」「行動心理学」などの分野で認知行動療法をベースにした思考の整理方法がブームとなったり、自分を知り、相手に働きかけるコミュニケーション術などのいわゆるハックマニュアルが増えています。
④シニフィエとシニフィアンの相違については、あえて「群盲象を評す」のイラストを使いました。相互理解と相違を尊重するために必要な要素をうまく表現している自戒のこもった逸話です。
これまでの説明を端的にまとめると、シニフィエはアナログの概念であり、これを表現するためのシニフィアンがデジタルであるがゆえに、どうしてもアナログをデジタルで表現することによる「0と1の間」の取りこぼしが生じうると言い換えられるでしょう。デジタルなシニフィアンで完全には埋め合わせができないアナログのシニフィエを、極力100%網羅するために、シチュエーションを変えて同じシニフィアンを何度も学習することによって、取りこぼしを極力少なくしていく作業というのが、シニフィエに近づくための有力な手段となります。これからいくつか実例を挙げていきます。
たとえば、日本語の「どうも」という言葉は、そのシチュエーションによっては「ありがとう」という意味にもなり、「はじめまして」「こんにちは」という意味にもなり、「うまくいっていない」といった否定的な意味にもなり得ます。
同じ「どうも」というシニフィアンを使っているのに、指し示そうとしているシニフィエがこんなにも変わってしまうのは、ある意味驚きです。
こうした意味の七変化を我々は言語を使って経験を重ねていくことによって学習しているのです。