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メンタルヘルスBizDev総論1/3:メンタルヘルス事業を始めるには

はじめに

ダイバーシティクリニックの新シリーズ、Diversity Clinic x BizDev第一弾の記事となります。

メンタルヘルスにまつわる課題やissueをベースにしたアプローチ方法、メンタルヘルス事業開発でつまづきやすいポイントなどを網羅する試みです。

これからメンタル関連の起業を考えている人、ヘルステックスタートアップ、企業内新規事業担当者に向けた内容です。

セグメントを意識しよう

メンタルヘルスと一口に言っても、とっても広い。
広大な砂漠の中で、どこを定点に据えればいいのかをまずは考えてみよう。
砂漠とはいえ、道標となるメルクマールは存在している。まずはそこを紹介しよう。

健康-不健康-病気がはじめの一歩

まず手始めに、(精神的な)健康、不健康、そして病気という分け方で考えてみよう。
あなたの考えている事業は、どこをターゲットにしているだろうか?
例えば、社内向けの産業保健サービスを考えているのだとしたら、健康な層をターゲットとしているだろうし、精神科医療向けのサービスを考えているのだとしたら、病気がターゲットになるはずだ。
これは至極当たり前のように聞こえるかも知れないが、メンタルヘルスの事業の多くは、この軸足の第1定点目が重要であることをまずは強調したい。

では、不健康をターゲットにするとは、どういうことなのだろうか?
それを説明するには、もう少し詳しい解説が必要になるため、次項に移ろう。

不健康には「健康な不健康」と「病的な不健康」が存在する

頭がこんがらがるかもしれないが、実は、「不健康」とは健康ではないことを意味するだけで、そこにはさらに広大な概念が存在する。そして、明確な境界線もまた難しいのだが、タイトルの通り、「健康な不健康」「病的な不健康」が存在すると考えていただくとよいだろう。
先程の社内向けの産業保健サービスは、健康の層が軸足であり、サービスのニーズがどこで発生するかというと、「健康な不健康」が生じている時と考えてよいだろう。これは、長時間労働が続いたり、担当プロジェクトでトラブルが生じたりする時の、健康な反応としての不健康だ。睡眠不足や自分で認識できる程度の情動不安定性、いつもより感傷的になりやすくなるなどの過敏性などがここに挙げられる。このように、「健康な不健康」層は、ストレスとなっているイベントがはっきりしており、かつそのストレスが過ぎ去ることにより、本人が抱える支障も可逆的に解消する層である。

一方、「病的な不健康」の層は、ストレス因があるという始まりは同じかもしれないが、ストレスが過ぎ去っても、あるいはストレスがないのに不可逆的に持続していたり、改善の糸口が見えていない状態の層である。加えて、支障自体の程度もより重大であることが多く、本人だけが抱えているレベルから次第に他者周囲にも波及してくる
他者周囲への波及というのは非常に重要な視点であり、対人関係や学業、職業などに影響が及んでいることを指す。
例えば、上記に挙げた、担当プロジェクトでトラブルが生じた場合に落ち込みを感じたり寝不足が生じることは、健康な反応であるが、トラブル解消後、何週間も落ち込みを感じたり寝不足を感じたり、さらには悲しい気持ちがコントロールできなくなったり、不意に涙が止まらなくなったりしている場合は、健康な反応の範疇にはもはや入らないと考えてよいだろう。これは病的な不健康への入り口だ。
もうお察しいただけるとは思うが、このような病的な不健康に入ると、当然、日常業務や対人関係にも影響を及ぼすこととなり、会議中に突然取り乱して泣いてしまったり、落ち込みによる生産性の低下に繋がったり、上司や同僚から心配されたりするようになる。自宅にいても、家族との会話が乏しくなり、家事が手につかなくなるなどの「他覚的」な支障が目立つようになってくる。

健康と病気との違いは自覚と他覚のギャップにあり

メンタルヘルスでの重要なポイントなのだが、この「他覚的」な支障が目立ってくればくるほど、つまり病的な度合いが高まってくるほど、自覚的な自己評価が真実と乖離してくるということだ。まさに茹でガエルの如くである。この背景には、本人の中では緩やかなメンタルの変化であるということに加え、本人のインプット力が支障の進行と共に徐々に落ちてくることに起因している。インプット力というのは、すなわち、自分で疲れを感じたり、感情の変化を感知したり、周囲の状況を読み取る力のことだ。心理学的にはこれを「認知」と呼んでいる。認知が低下してくることにより、自己評価はむしろ「自分は大丈夫」の方向に進んでいくが、周囲の心配や他覚的所見はそれと反比例して顕著になっていくという具合である。

ターゲット層の考え方

不健康の理解が深まったところで、話を元に戻そう。改めて、不健康をターゲットにする場合の層を明瞭化してみよう。

これは、矢印で考えると答えにたどりつく。

「健康→不健康」になることを防止したいサービスを考えているのならば、いつもは健康の層がターゲットになる。
②「不健康→健康」に戻したい、あるいは健康の方向をより促進したいサービスを考えているのならば、不健康の層がターゲットだ。


BizDev観点での①と②の違いは何だろうか?それは、事業の利用機会(opportunity)の頻度である。
①の利用機会はより長く、より多くのユーザーが利用できる反面、ユーザー単位におけるニーズの高まり度は低いことが予想される。
②は利用機会やユーザー数でこそ①より少ないものの、ニーズは①より格段に大きい。

例えば、フェムテックとメンタルヘルスのコラボレーションですでにいくつかのスタートアップが取り組んでいる「PMSアプリ」で考えてみよう。
①健康の層をターゲットにするのか、②不健康な層をターゲットにするので異なったプロダクト設計が必要となる。

①は、普段から健康を維持し、PMSを予防ないしは初動を早め到来時のペインを軽減するための設計が必要になる一方で、②は、PMSあるいはPMDD(月経前不快気分障害)にすでに苛まれている層に対して健康に戻したり、はたまた悪化した時に医療への橋渡しをしたりする(=これは、不健康から病気にまたぐ第3のセグメントだ)設計が必要になる。

同じアプリを謳っていても、まったく事業そのものが異なってしまうため、セグメントの設定はメンタルヘルスで特に重要なのだ。

▶不健康と病気の違いとは?:次号につづく

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