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メンタルヘルスBizDev総論3/3:「うつ病」を例に

はじめに

ダイバーシティクリニックの新シリーズ、Diversity Clinic x BizDev

メンタルヘルスにまつわる課題やissueをベースにしたアプローチ方法、メンタルヘルス事業開発でつまづきやすいポイントなどを網羅する試みです。

「メンタルヘルス事業における基本の総論」最終回の本稿では、々回前回のインプットをベースに、「うつ病」を例に実際にどのようなセグメンテーションを必要とするのかについて解説いたします。

これからメンタル関連の起業を考えている人、ヘルステックスタートアップ、企業内新規事業担当者に向けた内容です。

総論まとめ:「うつ病」を例に

うつ病を例に実践的に今までの総論をまとめる。
まず大前提に「うつ病」が何に基づいた定義なのかを限りなく明瞭化しておくことが大事だ。

操作的診断でのうつ病は、DSM-5における大うつ病性障害Major Depressive Disorder: MDDという診断基準を満たしているかが第一歩となる。
伝統的診断であれば、内因性のうつ病(=病気)なのか、心因性のうつ病(=病的な不健康)のことを指しているのか、あるいはその両者を含蓄し、広義のうつ病を指しているのかを改めて明瞭化しよう。
特に、内因性のうつ病を経験したり身近にそのような人がいない読者にとっては、心因性のうつ病しか想像がつかないということもあるかと思う。その場合は下の表を参考にするとよい。特に原因帰属/思考形式は決定的に異なっており、内因か心因かを判断する材料にもなる。もちろん明確に分けられないケースもたくさんある。

表1:内因性うつ病と心因性うつ病の違い

内因性心因性
MDD以外の操作的診断名少ない多い
重症度高め低め
症状持続期間長め短め
治療方法のメインプレーヤー薬物療法心理療法(初期症状が強い場合は薬物療法から)
再発率60%(ストレス因が再来しなければ)低い
自殺念慮等の重症度の高い症状多い少ない
原因帰属/思考形式内的(自責的)外的(他罰的)
内因・心因の違いについては「『こころの問題』の幅広さ」も参考にされたい。

この定義の再確認がなぜ重要かというと、例えば内因性のうつ病にカウンセリングサービスを提供する事業をターゲットとすることは、薬物療法との兼ね合いやウェイトが大きく変わってくるからだ。内因性のうつ病患者は、「心のスタミナ」が摩耗しきっており、カウンセリングに耐えられるエネルギーが残存していないと考えてよい。ペルソナ設定ユースケースを検討する際にも留意するとよいだろう。特に自殺念慮や根強い自責的思考等の重症度の高い症状が認められる場合は、自殺行動のリスクもあり、このようなサービスは逆効果になったり、医師から使用を止められてしまう可能性もある。


基本的には「病気」と定義づけされている層は医療でのサービス展開を考えないといけない。そこにはリーガル周りやプライバシーに関する規制が存在していることに留意しなければならない。
「病的な不健康」の層は、心理学的アプローチが有効な場合が多いが、初期症状が強いと薬物療法による基盤安定化をまず図ることが多い。その中で一定の割合で病気に発展する人もいる。これらを念頭に置いたリスクをどの程度企業(カルチャー)として許容できるかも考慮しておいたほうがよいだろう。

健康」側からアプローチする場合も同様だ。
「健康」から「健康的な不健康」の層は、おおよそ自己流で何とか健康を維持してきた人も多く、彼らの不健康性や改善の度合いを定性的・定量的に推し量るメトリックスは学術的には見解が一致していない
少なくとも、事業開発サイドにおいて何が課題と考えているのか、どんな仮説を検証したいのか、ユースケースはどんな場面かをとことん明瞭化しておかないと、事業のデリバリー自体が迷走したり困難となる可能性も高くなる。メンタルヘルスのセルフケアや一次予防を謳うサービスや、認知行動療法を背景とした自己記録補助ツールなどがそうだ。


これと並行して、昨今は医療においても「予防医学」が声高に叫ばれて久しいが、メンタルヘルスにおいては、ストレスチェックによる予防的アプローチが効果的であると言い難いのもまた課題である。(ストレスチェックやメンタルヘルスの予防医学については、「メンタルヘルス予防の難しさ」を参考にされたい)
したがって、予防的アプローチでissue/ solution探索を行うこともまた、非常に社会的意義の大きいことではあるとは思う。

表2 健康-不健康-病気セグメントによる各種特徴

健康健康な不健康病的な不健康病気
医療的観点予防的予防的治療的治療的
改善のニーズ低い高い人も高い高い
対象人数多いやや多いやや少ない少ない
精神科・心療内科受診の必要性なしほぼなしありあり
薬物療法の必要性なしほぼなしほぼありあり
心理療法の必要性ほぼなしありありほぼあり
入院の可能性なしなしあることもあり
各療法の必要性については「『こころの問題』の幅広さ」も参考にされたい。

以上、ざっくりセグメントに関する総論を全3回に分けて書いてみた。
この総論の理解が進むことによって、メンタルヘルスへの解像度が上がり、ボトルネックになっている事業とターゲット層とのミスマッチは防げれば幸いである。
どんどん世の中にメンタルヘルスが改善されるアイディアが実装されていくことを切に願っている。

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