83歳の女性。右大腿骨頸部骨折のため手術を受けた。手術当日の夜は意識清明であったが、手術翌日の夜間に、実際は死別してしているにもかかわらず「夫の食事を作るために帰宅したい」などと、つじつまの合わない言動が出現した。これまで認知症症状を指摘されたことはない。
この病態について誤っているのはどれか。
a. 幻視を伴う。
b. 日中にも起こる。
c. 身体疾患が原因となる。
d. 意識レベルが短時間で変動する。
e. ベンゾジアゼピン系薬剤が有効である。
解答:e ベンゾジアゼピン系薬剤は高齢者には使わない、と覚えておこう。
ベンゾジアゼピン系薬剤(略してベンゾ)は、アルコールのような作用があると考えると覚えやすい。
飲酒すると…
1. 不安が和らぐ:抗不安作用
2. 筋肉がリラックスする・緊張がほぐれる:筋弛緩作用(抗けいれん作用)
3. 眠気が出る:鎮静作用(催眠作用)
これらは、ベンゾも同様だ。
一方で、
4. 気が大きくなる、キャラが変わる:脱抑制
5. べらんめえ、フラフラになる:過鎮静
6. 同じ飲酒量でも酔えなくなってくる:耐性獲得、乱用・依存へのリスク
などは酩酊のような酒臭さはないとしてもベンゾでも生じうる副作用でもある。
特にベンゾによる脱抑制や過鎮静は、本問題のせん妄エピソードをエスカレートさせるだけでなく、病態のアセスメントを一層ややこしくさせる。せん妄自体は、急性心不全ならぬ、急性脳不全による一過性の意識障害が病態の本幹であることは「せん妄のおはなし」に解説したが、ベンゾを投与することによって、その副作用で意識障害「風」を呈しているのか、そもそもせん妄がベースにあるのか、はたまた、慢性脳不全に例えられる認知症の持続的・進行的な症状など別の鑑別を考慮スべきなのかがより一層困難になってしまう。なので、そもそも論で高齢者患者さんにはベンゾを使わない、せん妄のときの治療薬としてももちろん用いない、となる。
a. b. c. d. すべて正しい。せん妄のポイントとしてインプットしておこう。