64歳の女性。1年前から徐々に物忘れがひどくなってきていることを心配した家族に伴われて来院した。最近は財布をしまったことや食事をしたことを思い出せないこともあるという。
この患者の診断に有用な検査はどれか。
a Rorschachテスト
b 田中・Binet知能検査
c 津守・稲毛式発達検査
d Wechsler成人知能検査
e 簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS))
解答:d. この問題はやや飛び級感のある出題だ。114A70でも出題された選択肢:Wechsler記憶検査(WMS-R)のように、スクリーニング検査を経て機能評価として実施する二次的ないわゆる精密検査としては妥当であり、それが問題のいう「診断に有用な」というところのようなのだが、実際にはいきなり認知障害を疑ってWAISを実施する例は聞いたことがない。WAISは実施に3時間前後要するし、分析にも時間がかかるので、64歳という比較的高い年齢も考慮すると、少なくとも実際の臨床では長谷川式あるいはMMSEをスクリーニング検査として施行するのがファーストステップな気がする。ただし、これらはスクリーニングであって診断確定のための検査ではないので、最終的に診断に有用な検査ということではd.が正解になる、というロジックのようだ。
a. 「統合失調症のおはなし」のページ冒頭に出てくるイラストがロールシャッハテストだ。インクのシミで覚えよう。臨床では、それなりにこのテスト実施経験を積んだ心理士か精神科医でないとできないので、外来で簡易的にやるスクリーニング検査ではない。
b. 子どもの知能検査で2歳から適用可能。特に選択肢dの小児版である(WISC)が5歳以上であることから、2-5歳の子の知能検査にはもってこい。とはいえ、WISCのほうがメジャーな知能検査ではある。
c. 同じく小児で用いる発達検査。b. 親御さんや保育園の先生等に聴取する。筆者は見たことも使ったこともない。幼稚園や保育園でのクラス評価や保育効果にも使われているらしい。
e. 本問題で唯一スクリーニング検査として外来で用いうる検査。それでも臨床研究目的が主であり、ほとんどの精神科医にとっては実施した経験は皆無に等しい。BPRSは、これまた精神科臨床研究では有名な陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の簡易版であり、PANSSが統合失調症によりspecificに用いられるのに対し、BPRSは統合失調症に限らず、精神病症状の有無を検出するのに用いられる。