社交〈社会〉不安障害の訴えで特徴的なのはどれか。
a 「MRI 検査が怖い」
b 「世間の人々から嫌われている」
c 「明日にも何か大変なことが起こる」
d 「知らない人と会うと非常に緊張する」
e 「外出時、自宅に鍵をかけたか数十回確認する」
解答:d
不安症群の疾患のうち、社交(=人との交流)場面に特異的なものを社交不安症と呼ぶ。
社交不安症の本質は、他者に注目されるかもしれないという強い不安に起因している。なぜ不安に感じるかのかというと、注目された結果、自分が他者に否定的に評価されるだろうと怖くなってしまうからだ。さらには、こうした心理状況で身体も生理的に反応し、手に汗握ったり(発汗)、赤面したり、震えたりしてしまう。本人にとってはまさに「泣きっ面に蜂」であり、その場にいるだけで苦しいだろうことが容易に想像つく。単なる緊張しやすい体質なのか、社交不安症の診断のレベルなのかは、診断基準にも記載があるのだが、
① 社交の場面でにより「ほとんど常に」不安を誘発し、
② 不安を生じないように社交を「回避」していて、
③ 半年以上持続して実生活に重大な支障をきたしていることも考慮が具体的に必要だ。
③について、精神科の診断は、診断の先にメリットが本人にもたらされないと全く意味をなさない。実生活に支障をきたしていなければ、そもそも診断を下す必要もない、というわけだ。これは、“Do no harm”(=「『百害あって一利なし』のうち、(たとえその医療行為が一利なしになったとしても)百害をつくってはならない」という、精神科臨床の掟)の信条に基づいている。
a: 閉所恐怖症などの限局性恐怖症を想起するが、単に前回のMRI検査で嫌な思いをしただけかもしれないし、なんとも言えない。少なくとも「社交」の場面ではない。
b: 「嫌われている」から社交不安を抱くのではなく、社交をした結果「嫌われてしまうかもしれない」と漠然とした予測回路が顕著に回ってしまうことで生じる不安が本態である。順序が逆であること、かつ「不安」そのものはこのように本質的には、漠然とした、確率論にも基づかないほどの予測がベースにあることに気づかれるとよいだろう。上記①②③の診断基準を満たすほどでなくても、不安を軽減するコツは、「ほんとうは何に不安を感じているのか、具体的に考える」ことである。
c: あまりにも漠然としすぎており、不明瞭すぎるが、統合失調症の初期に感じる「世界没落体験」に近いか。少なくとも社交に起因してはいない。
e: 強迫症の強迫行動であり、やはり社交に起因してはいない。