11 歳の男児。学校に行けないことを主訴に父親に連れられて来院した。乳幼児期の発達は順調だった。就学時から文字を書くことが苦手だったが、ひらがなとカタカナは書けており、成績も中等度を保っていた。小学 3 年生から漢字の書き取りのミスが目立つようになり、何度学習しても習得できなかった。黒板を書き写すのに時間がかかるため、最近は授業についていけなくなり、次第に登校できない日が増えている。友人関係におけるトラブルはない。
診断はどれか。
a 知的発達障害
b 限局性学習障害
c 自閉スペクトラム症
d 注意欠如多動性障害
e 発達性協調運動障害
解答:b
限局性学習症(LDまたはSLD: Specific learning disorder)は、神経発達症群(旧称:発達障害群)の疾患の一つだ。この問題の最大の決め手フレーズは「乳幼児期の発達は順調だった」ことである。つまり、生まれてから保育園・幼稚園卒園までは特に問題がなかった、ということだ。書字(そして読字も)を公式に習い始める学童期(=小学生)になって初めて困難感が出始め、学年が上がっていく毎にどんどん影響が大きくなっている様子がわかるだろうか。しまいには「学校に行けない」となっていよいよ親御さんも対策に乗り出した、という経緯である。
最近は神経発達症の認知も進んできて、小学校3年生前後までには、担任や支援員の先生方に気づかれてご両親にSLDの可能性を指摘されることもある。その場合は、心理士といった専門家によるアセスメントをもらうことを筆者は推奨している。というのも、SLDの困難感は特定の条件で生じることが多く、細かく詳細に本人の特性と環境条件との相性をまずは見極める(=アセスメントを立てる)ことが寛容であるから。「特定の条件」というのは、例えば書字ひとつとっても、本男児のように板書が苦手で、あらかじめ用意されたプリントなら大丈夫なのか、とか、ノートのマス目がなくなると文字の大きさや列を揃えて書けなくなってしまうのか、とか、あるいは一字一句きれいに書いているがために時間が猛烈にかかってしまって遅れを取ってしまい、黒板を消されてしまって先に進めなくなっているのか、とか、様々であるからである。
相談窓口は、学校に「特別支援教育コーディネーター」がいらっしゃればよいが、ただ学校から指摘があっただけ、という場合は児童発達支援センター、発達障害支援センターなどの行政窓口が第一歩となろう。