【NEW】医師国家試験 精神科過去問解説 順次UP中です!→【国試過去問】

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35歳の男性。テレビを見ている時に口をもぐもぐと動かす、舌を突き出すなどの動きがみられることを、家族に指摘されたと訴えて来院した。約6か月前からその動きがみられるという。30歳ころ、幻覚妄想状態を呈して抗精神病薬を投与され、以後、服薬を継続中である。

この動きについて正しいのはどれか。

a. 睡眠中は消失する。

b. 抗Parkinson病薬が著効する。

c. 抗精神病薬に特異的な副作用である。

d. 口の動きに注意を向けさせると増悪する。

e. 片側上下肢を投げ出すような不随意運動を伴う。

解答:a 睡眠中は基本的に筋弛緩の方向に働くため、症状は減弱するか認めないことが多い。

不随意運動は、精神科では薬剤性の錐体外路症状 extrapyramidal symptoms (EPS)として鉄板だ。
この問題は難易度高めかつ良問なので収率が高い。
とはいえ、EPSは語源と時系列で4つ覚えてしまえば楽勝だ。以下、4つを薬剤投与後出現が早い順にならべて解説しよう。

1. ジストニア 【分・時間単位】
Dystonia: dys-(機能できてない(機能不全))+tonia(筋トーヌス)

急性ジストニアとも。例えば上腕二頭筋と上腕三頭筋など互いに拮抗する筋が同時に収縮してしまい、突っ張った状態になる。眼球上転や頚部捻転、舌突出など頚部より上が自他共に発見されやすいので臨床上は目立つが、体幹や四肢近位部が好発部位。抗精神病薬によるものであれば被疑薬を中止してビペリデン注射がなされる。マジョリティである原因不明の特発性ジストニアには、いわゆるボトックス注射などが対症療法だ。

2. アカシジア 【時間・日単位】
Akathisia: a-(非、無)+kathisia(座る(ギリシャ語由来))

いわゆる「ムズムズ」。語源通り、「座れない」ほどムズムズ・ソワソワしており、自他ともに明らかに判明しやすい症状だ。急性ジストニアよりはやや遅れて、投与後時間・日単位後に出現することが多い。

3. アキネジア【週・月単位】
Akinesia: a-(非、無)+kinesia(運動)

別名パーキンソニズム Parkinsonismだということがわかると、理解しやすいだろう。厳密にはパーキンソニズムの四大徴候(安静時振戦、筋強剛、姿勢反射障害、無動)の一つである。上記語源から理解していると、運動が無→無動と訳されていることがわかる。臨床的には無動というよりも能動的な運動の開始遅延や緩慢さが目立つため、動作緩慢 bradykinesiaと表現していることもある。brady-は「遅い」という意味だ。
薬剤性パーキンソニズムにおいても、無動だけでなくここに記載のあらゆる症状が出現しうるということに留意しよう。
なお、EPSの治療薬であるビペリデンは住友ファーマから「アキネトン akineton」という名前で売られている。決して同社の回し者ではないのだが、これまで出てきたEPS関連の語源をふんだんに取り入れた秀逸なネーミングだと個人的には思っている。

4. ジスキネジア【月・年単位】
Dyskinesia: dys-(機能不全)+kinesia(運動

薬剤性ジスキネジアは、出現が月・年単位後であることが多いため、遅発性ジスキネジア tardive dyskinesiaという接頭辞をつけることが多い。tardiveは「遅滞」という意味だ。今回の問題のように口唇ジスキネジアが有名でよく出題される。今回の問題で「舌を突き出す」が出てきて急性ジストニアが頭をよぎったものの、「約6ヶ月」の経過から即座に遅発性ジスキネジアへの切替を行えた君は、優勝だ。後述するが、ジストニアには治療法はあるがジスキネジアには治療法がないため、臨床上も明確な分岐点ができてしまうので大変重要な判断なのである。よく練られた問題だ。

b. 「抗Parkinson病薬」は正解。でも「著効」が不正解という難選択肢。国試あるあるだが、「著効」というオーバーな表現が入っている選択肢はマユツバものと考えておこう。この選択肢の厳密な正解は、遅発性ジスキネジアには抗Pakinson薬が全くと言っていいほど効果がない。…というより、上述したように治療法がない。著効例は急性ジストニアやアカシジアでより多く認め、上記の時系列が長くなるほど効きにくくなる。統合失調症患者さんで抗精神病薬を長期間あるいは多剤あるいは高用量で治療せざるをえない一定の割合の層では、主に慢性期における遅発性ジスキネジアがもたらす日常生活の様々な弊害が、まだ解決法をみぬ重要な医療課題 (アンメットメディカルニーズunmet medical needsなどとも呼ばれる)となっている。


c. EPSは薬剤性のものだけではないのに加え、薬剤性であってもドーパミンに関連した作用機序であれば抗精神病薬に限らない。


d. 意識すると、つまり随意化させようとするとむしろ不随意運動は減弱する。


e. バリズムについての記載である。

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