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不安とうつの密な関係 vol.2/3

はじめに

人間のエネルギーはバッテリーに例えることができるけれども、パソコンやスマホと違い、完全にシャットダウンすることができないということを前回の記事で説明しました。

今回は、エネルギーが浪費されている状態でどのようにしてセーブモードに入っていくのかを見ていくことにします。

セーブモードは段階的に移行する

実は、人間はセーブモードを段階的に導入していくことによって、一気にエネルギーゼロの状態に入らないようにしています。わかりやすく表現すると、早いうちからセーブモードに切り替わり、それでも消費が進むようならセーブモードに移行し、さらにセーブモードに段階的に移行していくという具合です。きれいに3段階というわけではありませんが、ざっと挙げると下のように6段階ぐらいになるでしょう。

セーブモードの段階は、生命にとって何が一番だいじかを考えると想像がしやすくなります。だいじな順に、

  1. 生命維持:心拍、呼吸、意識(覚醒)など
  2. 最低限の生活:日々の食事、睡眠、排泄など
  3. セルフケア:入浴、着替え、整容など
  4. 日常生活(他者を必要としないもの):読書、TV鑑賞、散歩、買い物など
  5. 日常生活:家族との交流など
  6. 社会生活:仕事、趣味、友人との交流など

とこんなところでしょうか。

具体例は人ぞれぞれだと思いますが、上の6段階を大きくまとめると、

  1. 自分:セルフケア
  2. 他者:個人的レベル:家族や友人と
  3. 社会:集団的レベル:職場やコミュニティと

となり、自分自身のケアが最も優先度が高く、次に、他者との交流、そして最後に社会との交流の順となります。そして今述べたのと逆の順番からセーブモードが移行していく、というわけです。

これは、エネルギーのセーブモードの順であるとともに、エネルギーが回復した時に可能になってくる生活内容の順番でもあり、療養治療の目標となることにもお気づきいただけると思います。

「社会」におけるエネルギー節約

過度にエネルギーを浪費する生活を強いられていたり、睡眠や休息が不十分で充電が消費に追いつかない状態だと、エネルギーレベルは当然ですが下がります。
身体はこのエネルギー不足に反応して、それ以上の消費をなんとか食い止めようと心身の「セーブモード」に入ります。

最初のセーブモードは「社会」におけるエネルギー節約です。

つまり、日々の仕事や友人とのかかわりといった集団での活動がいつもどおりにいかなくなります。

日々の個人的生活そのものは問題ありませんが、同じことをしていても疲れやすくなったり、楽しめるほどの気持ちにならなかったり、おっくうになったり、集中力が続かなかったりしていきます。

エネルギーを主語に置くと、エネルギー不足を補おうとするため、楽しみを感じたり集中するためのエネルギーを節約し、もっと生物学的に重要な日常生活の維持のためのエネルギーに回している、と考えることができます。
(…なのでなおさら個人的な日常生活には影響がないように感じてしまうわけです。)

この段階で、足りなくなったエネルギーを充電するために休息を極力確保したり、すこし睡眠を多めにとったりすることができればいいのですが、仕事や交友以外の場面では通常通り過ごせることが多く、家族からも気づかれにくいため、やはりそのままやり過ごしてしまいます。

そもそも多忙やプレッシャーの強い時期であることが多く、「とてもじゃないが、今は休めない」という状況も往々にしてあると思います。

外出がおっくうになり、引きこもりがちになる

さらにエネルギーの充電が消費に追いつかない状態が続くと、外出が困難になるほどエネルギーが足りなくなります。残されたエネルギーの消費もさらに抑えていかなくてはなりません。

この段階では、本人の「外に出たい」「通常通り仕事をしたい」といった基本的な意欲は(まだ)保たれているので、「自分の思い通りに自分が動けない」という考えが大きくなっていきます。この意欲(=心)と身体のギャップが生むフラストレーションこそが後に「自分は周囲に迷惑をかけている」という自責的思考の種になっていきます。

しかし、身体は身体でエネルギーが足りなくなっていることの防衛反応としてセーブモードに入っているわけで、「気の持ちよう」で解決することはなく、むしろここで気を奮い立たせること自体がエネルギーのさらなる浪費につながります。早急な休養が求められます。

具体的にこの段階では、仕事を休むことを検討したり、次に出てくる掃除や入浴、セルフケアができなくなることを防止する策を講じることが望まれます。

一方で、家族等の周囲から励まされたり、「リハビリ」と称して外に連れ出されたり、「家事の練習」をさせられたりし、対策がどんどんと真実からかけ離れていくのもこのタイミングが多いことも事実です。

ベッドから出られなくなる

前項の段階で休息を強化できればよいのですが、さらにセーブモードの進行を余儀なくされると、いよいよ「自分」自身に手が回らなくなってきます。

改めて、健康なあなたの1日の生活を想像してみてください。

朝ベッドから起き、朝ごはんを食べてニュースをチェックし、歯磨き、メイク、シャワー、着替え…と朝のルーチン準備に追われています。
準備が整うと学校や会社へ向かいます。
在宅勤務の方もいらっしゃるかもしれませんね。
お子さんがいらっしゃる方はここに保育園のお見送りなんかも入ってくるでしょう。

この朝の準備の時点であなたはどのくらいバッテリーを消費しているでしょうか?朝起きた時を100%とすると、80%ぐらい…ですか??
それとも、ルーチンだからそんなにエネルギー消費してないよ、という方もいらっしゃるかもしれませんね。いずれにしても、朝の準備だけでこれだけ多くのことをしている事に気づかれると思います。

では、同じことを朝起きた時のバッテリーが30%から始まることを想像してみてください。さらに、あなたのバッテリーは健康の時の3倍速く消費されてしまっています。朝の準備の途中半ばで、力尽きてしまいますね。
あくまでも30%や3倍は仮定の設定ではありますが、傾向としてはこのような状況で日々生活を強いられているのです。

朝の「ベッドから起きる」ことができないほどエネルギーが枯渇してしまっている段階では、身体はエネルギーを最低限の生活にもっていくことがギリギリのラインであり、それ以外のセルフケアや出勤、勤務等のすべてができなくなるというかなり本格的なセーブモードであることがわかると思います。

こうした場合は、やはり充電を本格的に強化していかないと消費のスピードに追いつくことはできません。お薬による治療で充電を本格化させ、自宅療養による消費の節約が基本となります。

>不安はバッテリーを摩耗させる:次回に続く

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