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「神経発達症(発達障害)」のおはなし vol.2/5

はじめに

前回は、神経発達症(発達障害)の相対性について、診断のプロセスを中心に説明してきました。この記事では、神経発達症(発達障害)の特性を抱えた方にとって、具体的にどのような点が苦しみがあるのか、前回にも出てきた「外とのギャップ」と「内なるギャップ」についてさらに詳しく説明をしてきます。

「育て方」が原因ではない

神経発達症(発達障害)の人たちにとって、幼少期から存在する「教育のシステム」というのは、ひとつの大きなハードルです。特に義務教育は、年齢で区切られています。すなわち、6歳になると小学校に入学することが憲法や法律で就学義務として定められています。生まれた時を「よーい、どん」のスタートとすると、この時点で出生体重や身長に違いがそれぞれあるように、脳の発達についてもそれぞれ個人差があります。この違いを実際に感じ取るのは、子ども自身もそうでしょうが、育児をしながら実際に行動を観察しているお母さんやお父さんといった家族です。具体的には「他のお友達に干渉されると金切り声でパニックになった」とか、「じっと座ってレストランで外食ができない」とか「スーパーで買物をしていても途端にいなくなってなってしまう」などのように、本人の成長に応じて心配事となるエピソードが蓄積されていくわけです。特に第1子を子育て中の親御さんからは、そもそも何もかもが初めてで不安のなか、こうしたさらなる心配事が上乗せされていくため、「自分の育て方が悪いんじゃないか」といった自分を責めるような考えが出てきてしまい、余計に不安を募らせがちです。しかし、以下の説明を読む限り、そうではないということがおわかりなれると思います。どうか、この記事ををたまたま目にした、心理的に追い詰められてしまっているお母さんお父さんが、安心につながりますように筆者は願っています。

小学校入学になると、「家族以外、自宅以外での社会生活」というもう一つの生活場面が増えます。それまで幼稚園生だった子どもも、保育園生だった子どもも生活様式が劇的に変わり、社会性が拡大される大きなイベントとなります。
小学校入学後、例えば宿題の忘れが目立ったり、机やランドセルがどれだけ注意されても整理できなかったり、教科によってできるものとできないものの開きが出てきたり、友達とトラブルになったり孤立したりと、様々な困難が生じてきます。そういった子どもたちの中には、明らかに学校生活が破綻したり、担任の先生の目に留まるほど困難を感じる子も出てきます。
この困難の背景が、入学前からあった本人の特性から説明が付く場合、本人は自分と社会環境との「外とのギャップ」が小学校入学によりさらに大きく開いたことによって生活に支障を来した、と考えることができます。重複しますが、この場合の「外」というのは、本人を取り巻く社会環境のことを指しており、学校だけではなく、自宅を含め本人が生活するすべての場面を含んでいます。それまでは、家族との時間が主で勉学もなかった生活が、小学校入学によって、友達との関係や勉強の進捗などが一気に加わり、相当に複雑な社会生活を強いられるわけです。

これらの生活の劇的な変化は、本人が6歳になったということだけが条件です。
身長や体重と同様に、脳も出生から6年が経過したということだけで入学を課せられることになります。ですから、「出生後6年経過」という時点で社会性や精神的な年齢が十分に6歳相当に満たっている子とそうでない子がいるのは当然といえば当然です。社会性や精神的な年齢というのはすなわち、脳の発達の度合いを差しています。
例えば低身長の子が、机と椅子が通常のものでは大きくて座りにくいのと同じく、神経発達症(発達障害)の子にとっては、社会生活が営みにくいのです。この営みにくさを具体的な行動等の障害(=ハードルの高さ)内容に分けたものが、ASDやADHDといった個々の疾患概念です。ですから、源流はこの「社会生活の営みにくさ、困難さ」にあり、共通した源流をもつグループとして「神経発達症(発達障害)」という名前があると考えていただければ理解が深まると思います。
この説明だけで、「育て方」に原因を求めることは筋違いであることがわかっていただけると思います。むしろ、育て方は原因ではなく始まりです。本人の特性に合わせて「社会生活を営みやすく」してあげることができる、という無限の可能性が育て方にはあるということがおわかりいただけるでしょう。

なお、低身長の場合は、前回の記事のように、身長値が下位2.5%の場合と定義して医療の対象としていますが、神経発達症(発達障害)の場合は、このようなクリアカットな線引は難しいため、どの程度社会生活に支障をきたしているか、という観点から定義するということになるわけです。

多くの子ども達にとって社会的に大きなハードルとなるのは、この小学校入学に加え、もう一つの時期が存在します。それは男の子の場合、中学校1年生頃と言われています。女の子は男の子より精神的な発達が速いので、小学校5年生頃が次の大きなハードルとなります。小学校入学をファースト クライシス(第1次危機)、その次をセカンド クライシスと呼んだりもします。セカンド クライシスについては、ちょうど思春期とも重なっているため、この時期を乗り越えること自体が大きなチャレンジであるとも言えるでしょう。

これまで説明したのは、自分と周囲の社会環境における「外とのギャップ」ですが、本人の内に備わった特性どうしの「内なるギャップ」があるのも神経発達症(発達障害)の人々の特徴です。「内なるギャップ」の解説にはまず、「特性」というキーワードを理解する必要があります。

>「特性」は「性格」とは違う:次へ続く

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