精神病症状とは？
精神病ということばの整理をまず行わなくてはいけません。
なぜかというと、単に「精神病」という用語はもう使われていないからです。これは、精神医学の歴史とも関係しています。
今から50年以上前までは、精神病というのは、「生活の通常の要求を満たす能力に著しい支障を来すほど精神機能が障害されている」(DSM-Ⅱ：1968年)という意味で頻繁に使われていました。それから研究や診断分類が進歩し、また臨床的にも精神科医のしごとのところで解説した、状態像と診断名という2つの診立てで考えることが現在の主流になっており、昔の「精神病」がかなり細分化されて現在に至ります。
昔の「精神病」を今風にアレンジするとこうなります。
まず、「精神病症状のある患者さんは精神病状態である」
という状態像で表現ができます。
そして、診断名については「精神病状態を呈する疾患には、統合失調症や妄想性障害などがあり、これらを含む精神病性障害という疾患グループが代表的である」と言えます。しかし、昔「精神病」とされた方々の中には、うつ病や双極性感情障害、解離症といった疾患も含まれており、これらの方々の一部に精神病状態が認められることが現代では明らかになっています。このように、同じ精神病状態にあっても、現代では「精神病」とひとくくりにはならず、診断名が多岐に渡るわけです。
アルコールや覚醒剤といった物質中毒、脳卒中などの身体疾患などでも精神病状態になることがあり、これらも単なる「精神病」とは呼びません。
以上、それでもあえて昔の「精神病」に近いものを現代の用語で選ぶとするなら、「精神病性障害」が当てはまるでしょう。もちろんこれまで説明してきたように厳密にはイコールではありません。
ことばの定義はいつの時代も流動的でとてもややこしいので、メンタルヘルスに関わりのある方以外はさほど重要視する必要はありませんが、このコラムではたくさんの「精神病」の入った用語が出てきますので、路頭に迷わないように最初に道案内をしてみました。
精神病症状は、喘息と同じぐらいありふれている
厚生労働省が、「患者調査」というのを3年に1度実施しています。最終調査年である2017年のデータを見ると、統合失調症で医療機関を利用している方は79.2万人。対して、骨折は67.7万人。
精神病症状というのは、躁うつ病の2割、うつ病の2割程度にも合併される（生涯有病率）と言われているため、これらを合わせると、104.7万人で、喘息112万人、脳血管疾患112万人と肩を並べます。
あなたが若い世代であれば、骨折で病院にかかったことがあったり、周りで喘息で治療を受けている方は一人はいらっしゃるのではないでしょうか？また、あなたがシニア世代であれば、軽い脳梗塞や脳出血を起こした、という方が周囲にいらっしゃっても不思議ではないでしょう。それぐらいの頻度感で、精神病症状を抱える方はいらっしゃいます。なお、上にも説明したように、精神病症状は「症状」ですので、これを含む疾患は多数存在しています。
精神症状と精神病症状のちがい
精神症状というのは、精神的な症状全般を指すカテゴリー名です。
不安やうつ、それからもちろん精神病症状もこの精神症状に全て含まれます。不眠や疲れやすさ、意欲の低下などもそれが顕著で生活に支障があるようなら精神症状に含まれるでしょう。なお、精神症状の反対は身体症状で、文字通り身体に生じた症状全般を指します。
これに対し、精神病症状というのは、この精神症状のひとつであり、「幻覚、妄想、理解しにくいまとまらなくなった言動」という3要素が含まれている症状を指しています。後に詳しく説明します。
精神症状と精神病症状はとてもよく間違われて使われているので、違いを知っておくと、役に立つことも出てくるでしょう。
それから、少し趣向が異なるのですが、「精神病圏」という疾患グループ名が存在します。ここにも精神病という名前が入っていますね。
「精神病圏」というのは、精神疾患をグループ分けする時に、精神分析学で有名なフロイトが、神経症圏と区別するためにつくった対照グループ名です。
精神病圏の中には統合失調症、躁うつ病といった精神疾患が含まれており、くわしくは、「こころの問題」の幅広さで解説しています。
