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「神経発達症(発達障害)」のおはなし vol.5/5

はじめに
前回は、本人が「大人の神経発達症(発達障害)」ではないかと疑っているような状況を架空の具体事例でご紹介しました。今回は神経発達症(発達障害)のおはなしの最終回となります。社会生活を円滑に営むにあたり、どのようなアプローチをとればいいかをまとめとしてご紹介したいと思います。

まずは自分をよく知ること

孫武という中国古代の武将が著したと伝えられる兵法書に『孫子』があります。
『孫子』には「知彼知己百戦不殆:彼を知り己を知れば、百戦して殆(あやう)からず 」と記載があります。
「相手を知り、己を知れば、百回戦うようなことがあっても死に至るような危険な目に遭うことはない」という意味合いになります。「殆」というのは、死の兆しのことです。兵隊の使いまわし方を説いた兵法書なので、どうしても「戦争」や「敵と戦う」というバイアスが入ってしまうのですが、孫武は平和主義者であったと言われています。度重なる戦争における様々な損失を憂慮し、国家や国民の存続に極めて甚大な悪影響を及ぼすものと捉え、避けて通れない戦争が多発していた時代にいかにして戦わずに勝つかということ、そして戦いそのものを最小限に留めようとすることを説いていたとされています。

現代の我々も戦略的に生活をするということは、情報過多な社会、ICTによる対人関係のあり方が劇的に変化している社会において、一定以上必要とされています。これは、準備を入念に行い身構えて生活をするという意味ではなく、どんな事態においても自分をよく知ることによって、そしてその事態を深く分析することによって課題解決を円滑に図ることを強調しているわけです。
ではなぜ課題解決を円滑に図ることが重要なのか?それは自己肯定感や自己評価を高め、心身ともに健康な生活を送るための第一歩となりうるからです。戦争と同様、無用なストレスやいさかいは、どのようなアウトプットで表現するものであれ、その人を摩耗させます。不必要な(身体の)摩耗は、精神的な摩耗に直結します。結果、自己評価の低下、自尊心という自分をだいじにする心持ちが減り、さらに悪循環に陥りやすくなります。

また、精神医学的、心理学的な見地から論じるに、なによりも【健康】に生きることが、人間の基本的欲求のひとつでもあり、生命を営む上での必要条件であるとも言えます。世界保健機関(World Health Organization:WHO)には憲章という、いわゆる憲法のような宣言協約があるのですが、この中に、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」と定義がなされています。

「心身ともに健康に生きる」という、人間が本来は最低限担保されている状態をただ維持していこうという、シンプルな原理原則と言ってもいいのですが、なかなか現実は真の意味で健康に過ごすことが難しいようです。

そのために、まずは自分をよく知ることから始めるのが、どんな方においても有効な手段であります。これがなかなか難しいのですが。
誰もみな、他人がどのような人生を送るべきか、明確な考えを持っているのに、自分の人生については、何も考えを持っていないようだった」と筆者の愛読書でもある『アルケミスト』に書いたのは、パウロ・コエーリョです。自戒をこめて、今後も肝に命じていきたいものです。

人間は、自分の心の中で考えたとおりの人間になる

前述の『アルケミスト』には「人間はみな、自分が見たいように世の中を見ている」と賢者が少年に話す場面が出てきますが、ローマの政治家で「帝王切開」の名称の由来にもつながっているカエサルや、『原因と結果の法則』という古典名著を書いたジェームズ・アレンも同じように説いています。
このフレーズが、実は現在の心理療法の主流ともなっている「認知行動療法」の原理原則になっています。認知行動療法でキーワードとなる「自動思考」は、まさにこの「自分の見たいものだけを見ている」という視点のクセを指摘したものです。考えのクセとも呼ばれています。そこからインプットである「認知」の歪みが生じて、そのインプットの歪みのためにアウトプットである「行動」の不適切につながっている、という考え方です。

神経発達症(発達障害)のおはなしからかけ離れてしまいましたが、自分の特性を知るということは、どのような事態において、どのように思考や視点としてインプットされているか、そしてそれがどのように行動としてアウトプットされているか、という万人に当てはまる精神活動のプロセスを、今一度深く追究し直すことそのものなのです。

皆さんがこの記事をきっかけに自分自身をより深く振り返り、より健康な生活を送るための第一歩になればと願っています。

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