【NEW】医師国家試験 精神科過去問解説しました!→【国試過去問】

精神科医のしごと vol.1/3

はじめに
【精神科】や【心療内科】と掲げているクリニックにおいて、実際に診療をしている医師は【精神科】を専門としている先生が多いと思います。精神科専門医(学会の資格)あるいは精神保健指定医(厚生労働省の国家資格)といった資格を有している医師がこれにあたります。
では、精神科と心療内科の違いは何でしょうか?また、精神科や心療内科を標榜(ひょうぼう)しているメンタルクリニックではどのような診察をしているのでしょう?
今回は、こういった疑問にお答えしながら、精神科医がどのような仕事をしているのか理解することで、メンタルヘルスに対する敷居が少しでも低くなればと願っています。

精神とか神経とかが名前に入っている科の違いがよくわからない

診療科名に「内科」や「外科」が含まれていれば、その診療科は心の症状ではなく、身体の症状をメインに診療をしています。ただし、心療内科を除きます

「内科」や「外科」という名称が入っていない、精神科、神経科、精神神経科、メンタルヘルス科、そして心療内科は、同じ種類のクリニックと考えていただいて構いません。
微妙なニュアンスを伝えるならば、「神経科」は古典的な印象を受け、「精神科」が最も現在メジャーに使われており、「精神神経科」はこの歴史を汲んでいる正式な印象を与え、メンタルヘルスはトレンドを意識していると言えます。いずれも筆者の独断と偏見が混じっていることをご容赦ください。
「心療内科」はこれとは別の流れで、精神と身体を切り離して考えずに統合的に診療しようじゃないかという背景で、比較的新しく約50年前に創られた名前です。精神科より心療内科の方が、何となく受け入れやすいと感じるのも、もしかしたらこうした新しい(…と言っても50年も前ですが)考えがこめられているからでしょうか。

精神科と心療内科の違いがよくわからない

クリニックにいらした方にとって明確な違いはありません。

よっぽど心療内科だけを専門にしていらっしゃる医師が心療内科だけを掲げたクリニックで診療をしていらっしゃる場合を除いて、精神科も心療内科もクリニックでは同じ仕事をしています。事実、それを裏付けるように、メンタルクリニックは心療内科と精神科がほぼ常にセットで標榜されていると思います。
ただ、名前が2つあるということは、厳密には違うことを意味していますから、それをあえて説明します。

こころから診るか、からだから診るか

精神科は、うつ病や双極性感情障害(または躁うつ病)、統合失調症といった、こころの症状がより強く現れる疾患の治療を行い、心療内科は、からだの症状がより強く現れる疾患の治療を行う、というのが厳密な説明になりますが、実際は、からだの症状とこころの症状はクリアカットな線引を設けることが難しく、クリニックにいらっしゃる患者さんにとっても、こころとからだのどちらの症状がより強く現れているか、というより、トータルに診てほしいという思いが当然優先されます。ただし、あまりにもからだの症状が上回っている場合は、一般の内科クリニックにかかってから内科医の先生に「検査で原因がわからないので、こころの問題では」と精神科・心療内科を紹介されるケースがしばしばあります。この場合も、心療内科と精神科の区別はありません。

また、同じ症状に対して、精神科の視点では「こころ」からアプローチし、心療内科の視点では「からだ」からアプローチする、という説明もできなくはないですが、あまり現実的ではありません。それでもあえて説明すると、よくある例として適応障害と自律神経失調症のお話があります。

適応障害は、ある特定の状況が、その人にとって相対的に圧倒される状態が持続したことにより、気分の落ち込みや不安の増大といった精神症状や、めまいやしびれ、頭痛等の身体症状として出現している疾患で、「適応」障害というのは、こういった症状がアラートの役割をし、特定の状況に「順応」することができなくなっていることを意味しています。

自律神経失調症とは、この精神症状や身体症状が文字通り「自律神経のバランスが失われている」と解釈し表現した名称になります。バランスは「調(ととの)っている」とも表現されるため、調いが失われると、「失調」になります。

適応障害は「ある特定の状況」かどうかについて、様々な症状との心理的な因果関係(=こころからのアプローチ)を探ります。乱暴に表現しますが、プレッシャーやストレスが圧倒的な状況下で、何らかの重大な心身の異変が生じ、悪化の一途をたどり、これが順応を困難にさせている場合、心身の悪化と、精神症状や身体症状が出現した時期に強い関連性があれば、精神科的には適応障害とされる可能性があり、逆に、何も思い当たるきっかけがなく突然気分の著しい落ち込みや不安の出現が生じた場合は、適応障害にはなりません。いずれも、明らかな「ある特定の状況」(=専門的には「ストレス因」と呼びます)という心理的な因果関係があるかどうかという、こころからのアプローチを試みて診断しているわけです。

一方、自律神経失調症は(心理的な因果関係の詳細を問わず)自律神経という身体の組織のバランスが崩れたことに由来する症状かどうか(=からだからのアプローチ)というのを探ります。なお、適応障害は病名(=疾患名)ですが、自律神経失調症も心身症も厳密には病名ではなく、状態を表す用語となっています。しかし、本質的には両者は同じ症状、同じ状態を指していますが、アプローチが異なると名前が変わるわけです。
実際は、こころとからだのどちらのアプローチであっても、トータルでひとりの患者さんを診察し、治療していることには変わりませんので、この説明はあまり現実的ではないかもしれません。

神経内科と精神科・心療内科の違いについて

ややこしいのですが、「神経内科」というのは今まで説明してきた話とは別に、明確に区分けがなされている内科系の診療科です。もとは、「神経科」という名前で精神科と神経内科は一緒の扱いでしたが、身体的な症状が優位にある疾患群を診断治療する神経内科と、精神的な症状が優位になる疾患群を診断治療する精神科とに分かれ、当時は精神医学の方が隆盛でしたので、神経科から神経内科が派生した、という歴史があります。現在では、身体検査や血液、尿検査、画像の検査といった内科領域の検査を通じて診断を下すパーキンソン病や神経変性疾患などを神経内科では診療しています。

>精神科医の仕事は【点】を【面】にすること:次回に続く

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