【NEW】医師国家試験 精神科過去問解説しました!→【国試過去問】

「不安」のおはなし vol. 1/2

不安とは?

はじめに

メンタルクリニックにいらっしゃる方の二大症状はうつと不安です。このうち、今回は、不安に関する解説をします。皆さんが不安に苛まれている場合、どんな状態であればクリニックを受診したほうがいいのかについて判断の一助になることを願っています。

不安には健康な不安と症状としての不安がある。

そもそも不安とは何でしょうか?不安の類義語を挙げてみましょう。

心配、懸念、憂慮、心もとなさ、恐れ、物案じ…など辞書を広げると結構出てきます。

類義語の多さは、それだけ私たちがよく経験するものであることの表れと言ってもいいでしょう。また、微妙なニュアンスで感じ方にバラエティがあり、その都度表現方法が異なると言ってもいいかもしれません。

これが意味するところは、私たちが喜怒哀楽のひとつとして日常茶飯事に不安を感じているということであり、
不安自体は一目置くような珍しいものでも厄介払いするべき特異なものでもない

と言ってもいいでしょう。

健康な不安であれば、不安を感じてもいいのだ

と捉えることはまず大事なポイントです。

では、私たちが普段感じる健康な不安と、精神科医が捉える症状としての不安とは何が違うのでしょうか?

詳しく説明していきたいと思います。

健康な不安は、あなたを生き延びさせてきた。

あなたがこの世に生まれ、こうやってこのコラムを読んでいられるのは、当たり前ですがひとえにあなたのご両親のおかげです。そのご両親は、さらに双方のご両親から生まれ…とさかのぼっていくと、ご先祖からずっとあなたは命を受け継いで現在に至っていることがわかります。

そのサバイバル術に「不安」が必要不可欠だった、と言うと想像がつくでしょうか?それとも驚かれるでしょうか?

実は、はるか太古の昔、「不安」はまだ人間が食物連鎖の頂点でなかった頃、肉食動物などの獣に襲われることを防ぐために備わっていた機能であり、実は現在も魚類から爬虫類から鳥類といった生物の種を超えて脊椎動物に共通して存在する扁桃体という脳の一部分が役割を担っていることがわかっています。

扁桃体は、いわば非常ベルのような役割です。
加えて、種を超えて存在している分、生物としての進化の過程を経てもなお残されている機能ですから、非常に原始的で単純に作動してしまうショートカット的、条件反射的な非常ベルであることも特徴です。

この非常ベルが存在していたことによる恩恵はとても大きく、原始時代には獣に食べられてしまうことを防ぎ、その後も石橋を叩いて渡ることによって世代を超えて数々の命の危険を回避してきたと言えます。

現代人は「非常ベル」要らず?

現代の人間は、いわゆる文明化によって食物連鎖の頂点に立ち、それだけでなく農業の発展や産業革命によって物質的な豊かさも手に入れ、さらには「精神的な豊かさ」も得ようとする時代にまで進んでいます。

一方で、人間がこういった文明化によって成り上がってきたスピードというのは、哺乳類としての進化のスピードをはるかにしのいでしまっていますから、生物学的な進化に比べて極めて短期間で社会的な変化が進んでいると言えます。

それを証拠に、現代に住んでいるあなたが、さすがに猛獣から身を守るために生活をするシチュエーションには日々遭遇していないと思います。それぐらい、現代は「安全安心」を得られる世の中になっているのです。

扁桃体が繰り出す「非常ベル」は、この文明化のスピードに追いつけず、未だに古代の頃と同じ程度で機能するため、現在の安全安心な生活には少し大げさで余分な機能になってきている、とも言えるでしょう。

糖尿病についても同様のお話があります。

太古の昔は、その日の食べ物を得ることさえ難しかったため、少しの食物の摂取でも血糖値を維持できるように、いわゆる「コストパフォーマンス」を上げようと、血糖値を上げるホルモンを複数種類体に備えることでエネルギーを維持していました。

ところが、現代は飽食の時代ですので、こういった血糖を上げるホルモンはむしろ足かせになってしまっています。

血糖を下げるホルモンのほうが重要な機能になっているのに、実は人間の生物学的な進化がまだまだ文明化のスピードに追いついていないので、いまだに血糖を下げるホルモンはひとつしか備わっていません;

これがインスリンです。

健康な不安と症状としての不安

現代の生活で不安を感じる時はどんな時がありますか?

「試験の前日」、「大事なクライアントとのミーティング」、「将来のキャリアを考える時」…

いろいろありますね。
こういった場面で適切に不安を感受できていれば、それは健康な反応であるといえるでしょう。
人によっては、文字通り「手に汗握る」方もいらっしゃるでしょうし、「ドキドキする」ような高ぶりも伴う場合もあるかもしれません。

筋肉がこわばったり、「興奮して目が冴えてなかなか寝られない」「途中で起きてしまう」といった経験もあるかもしれません。

こういった身体の生理的な変化というのは、元をたどると、いつ獣に襲われるかもしれないという状況に対して
いつでも「臨戦態勢」に入れるように対策を取っている
ための変化でもあります。

こういった変化について、

  1. コントロール感がある
  2. 時間(不安を感じているイベント)とともに過ぎ去っていく
  3. 不安をそれ相応に感じている自覚がある

という3つを満たしていれば健康な反応としての不安であると言えるでしょう。

これからお話する症状としての不安との区別になります。

>症状としての不安を構成するのは2要素:次回に続く

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