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不安とうつの密な関係 vol.1/3

はじめに

2020年11月にアメリカで「不安や不眠、認知症が新型コロナウイルス感染症の影響で有意に増加した」とする論文が発表されました[1]

不眠は様々な精神疾患と関連しているため、不安だけではなく、クリニックにおける2大症状のうつも悪化していることを示唆しています。これを裏付ける報告がアメリカ疾病予防管理センター(CDC)で2021年2月にリリースされています[2]。

不安うつについては、どうなったら症状と捉えればいいのか、そして、早期発見による予防の重要性についてはすでに解説した通りですが、不安とうつは切っても切れない関係にあることはご存知でしょうか?


不安がうつを悪化させ、うつが不安をさらに増強してしまうという背景について、不安とうつの総集編としてここで解説していきます。

半分以上に合併

切っても切れない関係にあると言われるうつと不安ですが、どの程度密接に関係しているのでしょうか?

オランダで行われた抑うつ不安研究(Netherlands Study of Depression and Anxiety: NESDA)では、不安症の方の約80%がうつ病の診断基準を満たしており、うつ病の方の約75%が不安症の基準を満たしている、との報告[3]があります。
世界保健機関(World Health Organization: WHO)による24カ国の研究では、うつ病の方の約46%の方が実際に不安症も合併していると報告[4]されており、クリニックで診療している筆者の個人的仮説とも一致しています。

若い女性が多い

実際にどんな方々がうつと不安を合併しやすいかというと、25歳から34歳の女性という報告[5]があります。それ以外では、単身生活を送っている方、雇用されていない方、子どもの頃にトラウマを受けた方、親御さんに精神科で治療を受けたことがある方など、社会的な要因も数多く列挙されています。ただし、社会的な要因については、他の精神疾患の合併においても同様であることが多く、うつと不安の合併は若年女性に多いというのが大きな特徴と言えるでしょう。

では、なぜ不安とうつは密な関係になりやすいのか?
具体的に説明していきます。

不安はGPSと同じ

不安というのは、例えていうとバッテリーを持続的に大量消費するアプリのような存在です。本人が不安の存在に気づいているか否かにかかわらず、目に見えないところでかなりのエネルギーを消耗させるからです。

ですので、OFFのできない不安は心身のエネルギー消費を激しくしてしまい、エネルギーレベル低下の状態を作ります。

スマートフォン(スマホ)で例えると、位置情報で使うGPS(Global Positioning System)がずっとONになっているようなイメージでしょうか。

不安はバッテリーを消費するバックグラウンドアプリケーション。

GPSのような「重たい」機能やアプリが常時ONだと、バッテリーの消費が激しくなって、いつもより早くバッテリーがLOWの状態になりますよね。

バッテリーがLOWの状態は、すなわちセーブモードに入らなければすべての処理を行うことができなくなりますので、エネルギーレベルの低い状態で生活を強いられるうつの状態と同じと言えます。


皆さんもスマホやパソコンのバッテリーがLOWになって画面が暗くなったり、自動的にシャットダウンさせられてしまった経験があるのではないかと思います。

人間はシャットダウンできない

しかし、当然といえば当然なのですが、人間の場合はバッテリーがLOWになってもシャットダウンに入ることができず、強制終了することができません。

なぜでしょうか?

それは、パソコンやスマホはシャットダウンしてしまえばエネルギーを使わなくて済み、充電をその後することで回復できますが、人間の場合、どんなにエネルギーが低くなっても、覚醒したり、心臓を動かしたり、呼吸をするためのエネルギーが最低限必要になります。これを止めてしまうと生命の営みができなくなってしまいます。

人間はパソコンやスマホと違って、どんなにLOWのバッテリーになってもエネルギーを消費することをやめられないわけです。ですので、充電をするにしても、充電しながら同時に消費することを避けられない状態にあると言えます。

人間はシャットダウンすることができない…

言い換えると、消費の度合いよりも充電を強化する「充電>>消費」のバランスにしないと、いくら休息をとってもエネルギーは上がってこないことになります。これは、この記事でいちばん重要なポイントです。

心拍といい、呼吸といい、普段こうした「あたりまえ」の生命維持活動を意識的に努力して行っているわけではありません。しかし、エネルギーレベルが低下するにつれて、実はこうした最も重要な活動にエネルギーを優先配分するよう、身体はセーブモードに入るのです。

以前解説したうつ病の「昏迷」状態というのは、「エネルギーゼロ」の最重症とはいえ、やはり心臓や呼吸は維持されています。(もちろん、大変危険な状態には変わりありませんが)

>セーブーモードは段階的に移行していく:次回に続く

[1] Maxime Taquet, Sierra Luciano, John R Geddes, et al. Bidirectional associations between COVID-19 and psychiatric disorder: retrospective cohort studies of 62354 COVID-19 cases in the USA The Lancet Psychiatry. 2021 02;8(2);130-140

[2] Anjel Vahratian, Stephen J. Blumberg, et al. Symptoms of Anxiety or Depressive Disorder and Use of Mental Health Care Among Adults During the COVID-19 Pandemic — United States, August 2020–February 2021 Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) by Centers for Disease Control and Prevention, USA Early Release / March 26, 2021 / 70

[3] Lamers F, van Oppen P, Comijs HC, et al. Comorbidity patterns of anxiety and depressive disorders in a large cohort study: the Netherlands Study of Depression and Anxiety (NESDA). J Clin Psychiatry. 2011 Mar;72(3):341-8. 2011

[4] Kessler RC, Birnbaum HG, Shahly V, et al. Age differences in the prevalence and co-morbidity of DSM-IV major depressive episodes: results from the WHO World Mental Health Survey Initiative. Depress Anxiety 27:351, 2010.

[5] de Graaf R, Bijl RV, Smit F, Vollebergh WA, et al. Risk factors for 12-month comorbidity of mood, anxiety, and substance use disorders: findings from the Netherlands Mental Health Survey and Incidence Study. Am J Psychiatry. 2002 Apr;159(4):620-9.

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