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「解離」のおはなし vol.1/3

はじめに

今回は、「解離」のおはなしです。解離は、とても広範囲な現象を含む概念です。多くの皆さんが経験したことのあるものから、生活に支障をきたすほどのものまで存在しています。特に後者の場合、同じ解離でも「不安」がキーワードとなってきます。不安については、扁桃体という脳の構造と密接に関わっているということを「不安」のおはなしにも詳しく書きましたが、解離も扁桃体を含む大脳辺縁系という脳の部分が密接に関わっていることが知られています。従って、解離の理解は不安の理解にもつながります

解離は自分の意識が切り離される

「解離」という用語を初めて知る方の中には、文字から推測するに、なんとなく何かが離れて遠のいていくようなイメージを抱くのではないでしょうか。
解離は、自分の「意識」が、離れて遠のいていく現象を広く指しています。
「心身」という用語がありますね。これは、心と身体を指しているのはご存知だと思いますが、単純に2つの概念が並記されているだけではなく、「心身」には心と体が「離れずに関連しあっている」という意味も含まれています。この心と体をまとめているのが「意識」であり、意識によって人は自分が自分であるという感覚「アイデンティティ」を形成することができます。

電気のブレーカーに例えてみる

ではなぜ、自分の意識が遠のくようなことが起きるのでしょうか?
これを理解するために皆さんの自宅にもある電気のブレーカーを例に挙げてみましょう。
皆さんは、ヘアドライヤーと電子レンジと電気ケトルを同時に使って、家中の電気が全部切れてしまうことを経験したことはありますか?そうですね、こういう時は「ブレーカーが落ちた」と言いますよね。

このブレーカーを「意識」に置き換えてみるとわかりやすいと思います。
では、ブレーカーは何のためにあるかと言うと、電流が大量に流れた時に回路がショートして破綻しないようにするためであり、過剰な負荷に対する防衛策として設置されています。

この装置は比較的単純で、設定された電流の強さ(A:アンペア)より強い電流が流れると、有無を言わさず「バチッ」と切れるようになっています。
これは、どんな状況であっても一律で切れるようなシステムであり、状況を考慮しないショートカット的な警報システムと言えます。

トラウマ性ストレスでブレーカーが切れる

この「ショートカット」という用語は、「不安」のおはなしのところにも出てきましたね。人間にも実はこのような機能が備わっていて「扁桃体」がその役割を果たしています。扁桃体は原始的な脳の構造であり、我々人間だけでなく、他の哺乳類や爬虫類、魚類にまで至って共通して持っています。

ただし、過剰な電流に対してブレーカーのようにすぐにストンと落ちてしまうわけではなく、最初はストレスに抗うように体を奮い立たせるところから始まります。具体的には「交感神経」に働きかけて筋肉をこわばらせたり、覚醒度を上げたりといった「臨戦態勢」をつくって過剰なストレス負荷に対応しようとするわけです。この交感神経の機能を英語でFight(闘争) or Flight(逃走)といいます。いずれも交感神経は「臨戦態勢」において瞬時に対応できるようなモードの時に働くという意味です。語呂がいいので覚えやすいですね。

しかし、あまりにも過剰で圧倒的なストレスが一気に押し寄せると、扁桃体はブレーカーを切るように指示を送ります。こうなると、「解離」となります。

この例が、サバンナでも見受けられます。チーターに追いかけられた獲物は最初は全速力でFlightしたりFightしますが、一旦チーターに捕まってしまうと全身脱力状態となり、無抵抗になったように見られます。これは、圧倒的なストレス負荷が一気にかかり、解離が生じた結果です。解離が起こることによって「意識」が遠のきますので、チーターに「ガブリ」とやられる時の痛みを無感覚にしているのかもしれません。

人間の場合、「あまりにも過剰で圧倒的なストレス」のことをトラウマ性ストレスと呼んでいます。「トラウマ」というのは巷でもよく浸透している概念だと思いますが、一般的には戦争における殺人やレイプ、災害時の喪失など「自分ではどうしようもない甚大なイベントによって受けた傷」のことを指しています。

以上の説明を簡易的に図にしてみたのがこちらです[1]。

図Aの横軸は脅威レベルです。真ん中の”Overwhelm point”とは、先程例に挙げたブレーカーの設定電流に相当します。これより右側の脅威レベルは全て設定以上のストレスとなりますので、「トラウマ性ストレス」として認識され、本人のキャパシティの限界を越えてしまいます。

縦軸は賦活度と言い、どの程度その人がストレスによって「奮い立たされるか」を示しています。脅威レベルがまだ抱えきれるストレスであれば身体を奮い立たせて抗おうとする方向に働き、過覚醒の状態になります。なので、「不安」のおはなしでも書いたように眠りも浅くなったり、動悸や呼吸が速くなります。ちょうど、電気ブレーカーが切れる前に装置全体が電流負荷で熱くなってくるようなイメージでしょうか。

ところが、先程のような圧倒的なトラウマ性になると今度は「ストン」と覚醒度が落ちます。これがブレーカーが切れたときと同じ現象で、これ以上負荷がかからないようにシャットダウンするのです。これが解離です。

>健康な解離と症状としての解離がある:次回へ


[1] Maggie Schauer, et al. “Dissociation following traumatic stress: Etiology and treatment” Zeitschrift für Psychologie/Journal of Psychology, 218, 109-127

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